三階へと続く階段に降りていたシャッターを開け、三階へと上がる。先頭を歩くのは笠松さんと小堀さん。その後ろを早川と黄瀬が楽しげに話をしながら歩いている。原とザキは私の後ろで楽しそうに歩いており、私はといえば隣を歩く森山さんに終始話しかけられていた。至極面倒だし、なぜ海常の面々はこれを良しとしているのかも分からない。止めろよ。

好きな食べ物だとか好きな音楽だとか、お見合いかとツッコみたくなるような質問に最初こそ答えていたが段々と面倒になってきて最早シカトを決め込んでいる。それでも森山さんは「冷たい葉月ちゃんも素敵だ」とか何とか言って懲りずな話しかけてくる。後ろを歩く二人がそれを見て笑っていることも相まって私の機嫌は悪くなる一方だった。

「あー!もう!うるさい!静かにしろ!」
「ぎゃははは!」
「ぶはっ!葉月がキレた!」
「笑ってんなよ外野」
「怒る葉月ちゃんも美人だ…」
「…森山さん、しーっです」
「っ!」

隣で話し続ける森山さんも後ろでゲラゲラ笑う二人もうるさい。いい加減に我慢の限界がきて声を荒げれば、後ろの二人の笑い声が一層うるさくなる。私を指さして笑う二人を睨みつけるけど効果はない。終いには森山さんまで「葉月ちゃんに怒られた…!」なんて喜んでいる。

ただ怒るだけじゃ黙らないと察した私は口元に人差し指を当てて小さい子に叱るようにすれば顔を真っ赤にして口を両手で抑えてコクコクと頷く。正直意味がわからないし、心底やめて欲しい。この調子で隣に立つのもやめて欲しい。教室棟の探索中も常に私の隣をキープしている森山さんは私の言う事を聞いて静かにしている。静かにして欲しいというより私の隣に来ないで欲しいのが本音なのだがこの調子じゃ気づいていないのだろう。

「てかさあ、何でこんな何も無いわけ?」
「今までこんなことなかったっスよね…」
「何か理由があるのかもしれないな…。どうする?笠松」
「…一度戻って今吉達に指示を仰いだ方がよさそうだな」

森山さんにイライラしつつも探索を続ける。が、探しても探しても何も見つからない。今までこんな事はなかったし、特別教室は全て鍵がかかっていて出入りできない。教室棟で鍵を入手しなければ始まらないのにも関わらず何も起きない。私と同様にイライラしてきたのか一哉が大きくため息をついて口を開く。黄瀬もその言葉に同意するように考え込み、小堀さんと笠松さんが二人で話し始める。

「…まさか、ね」
「どうしたの?葉月ちゃん」
「あ、いや。何でもないです」
「そっか。あ、そうだ。最初みたいに由孝さんとは呼んでくれないのか?」
「…まあ、それは追々」
「遠慮せずとも、今呼んでくれていいんだよ!」
「はぁ…由孝さん。静かにしてくれなきゃもうお話してあげませんよ」
「〜っ!」

探索しても状況が進展しない。この状況にはどうも覚えがあって、まさかアノコじゃなきゃ行けないとかそういう事じゃないよな、と考えて頭を振る。私の呟きに反応した森山さんに返事をすると、さっきまで静かだったのにまたしてもうるさくなる。

この人に正攻法は通じない、それは今までこの人と接してきて学んだことだ。人差し指を森山さんの口に当てて妖艶に笑ってみせる。途端にさっきの赤面が比にならないほど赤くなって静かになる。漸く静かになった森山さんをその場に放置して少し離れた場所にいた一哉とザキの所に足を向ける。

「モテモテだったな」
「うっさい」
「不機嫌かよ」
「分かってんなら助けてよ」
「いや、面白かったからさあ」
「最悪」

私を見てニヤニヤ笑う一哉とザキの腹に1発ずつパンチをプレゼントして二人の間に立って歩き始める。理由は簡単。両隣にこいつらを置いておけば森山さんが私の隣に来ることはなくなるから。至極単純で簡単な理由だ。

これは私の推測でしかないし、確証は一切ないが、恐らくこの階の探索はアノコがいなければならない。今までのことを踏まえて考えれば私がいない状態での探索、というのはまず有り得ない。となれば、彼女がいなければならないもしくは私と彼女がいなければならない、の二択が考えられる。

「…気をつけなきゃなあ」
「何が?」
「次の探索。いつ死ぬかわかんないからさ」
「縁起でもねえこと言うのやめろよ」
「ザキ心配症かよ」
「お前もだろふざけんな」
「やめて!私のために争わないで!」
「「ぶはっ!」」

放送室で私と赤司が聞いたあの言葉は今吉さんと霧崎のメンバーしか知らない。それは他のメンバーに話すと混乱を招く恐れがあるから、と話していないからだ。つまり何も知らないこいつらは三階の探索は今まで以上に危険が増すことを予想していない。それが吉と出るのか凶と出るのかは知らないが大変になるのは間違いないと何度目か分からないため息をついた。


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