「なんでそんな死にそうなの」
「お前に話しかけまくってた先輩と姫チャンの会話が無理すぎて吐きそう」
「一哉だってセフレの子とイチャついてるじゃん」
「あれとは違うって。グラスに入った水に角砂糖を限界まで入れてその上から生クリームと練乳をぶっかけたみたいな感じの会話してた」
「どんな会話だ」

海常と西条サンを連れて探索に行き、戻ってきた一哉とザキの顔は何故か死んでいた。ザキならともかく、一哉がそんな顔をするなんて珍しいと声をかければ後ろから抱きつくように腹に手を回してくっついてきた一哉が私の頭に顎を乗せて話し始める。暑いし重いし離れて欲しいと思いながらも話を聞く。

「アノコ連れてっても進展しなかったの?」
「うん。ただきゃー怖ぁい、大丈夫俺がいるよ、由孝さん、姫ちゃん、みたいなテンプレのやり取りしてただけ」
「何だそのクソみたいなコントは」
「俺が聞きたい」

アノコを連れて行っても進展しなかったということは残る可能性は私と彼女がいなければならないというパターン。私が一番避けたかった展開が今目の前で起きようとしている事実に頭を抱えたくなった。しかも一緒に行くのがあの森山さんがいる海常ということは一哉ですら眉間に皺を寄せるあのコントを間近で見ていなければならないということだ。最悪だ、最悪でしかない。

「あ、あの…葉月ちゃん!」
「あ?」
「私、足引っ張らないようにがんばるから!」
「あっそ。余計なこと、しないでね」

私の予想は大正解で赤司達から西条サンと私、そして海常で探索に行くことが決まった。体育館の扉の前で壁に寄りかかって出発を待っていると西条サンが駆け寄ってくる。眉間に皺を寄せて露骨に嫌な表情をしてるのにも関わらずお構い無しに彼女は話しかけてくる。

「葉月態度悪すぎっしょ」
「そんな事ないでしょ。てか、何してたの」
「ん?これ康次郎から貰ってきた」
「ああ、そういう…。ザキは?」
「赤司からハサミもらってたから置いてきた」
「ザキ、赤司に話しかけれるかな。ビビってないかな」
「ビビってねえよ。つーか何してんだお前ら」
「葉月にのしかかってる」
「一哉にのしかかられてる」
「やめてやれよ…」

私が会話を強制的に終了させたのにも関わらずまだ何か言いたいことがあるのか口を開いたり閉じたりする西条サンをわざと視界に入れないように俯いていると横から一哉が話しかけてくる。さっきまで古橋が持っていたナイフを片手にヘラリと笑う一哉は私を壁から引き剥がして背中にのしかかってくる。

本人不在の状態でザキをからかっているとザキが呆れたような顔で歩いてくる。その手にはさっきまで赤司が持っていたハサミ。ウチの連中がこういう武器を持つとガラ悪いしほんとに危ない奴に見えるから面白い。態と体重をかけてくる一哉の鳩尾に肘を入れて無理やり引きはがす。ああ、重い。痛いんだけど、と言いながら鳩尾をさする一哉を無視して体育館の扉を開けた。

「はあ…予想通り…」
「めっちゃ見つかるじゃんウケる」
「ウケねえよ」
「機嫌最悪じゃねえか」
「最悪も最悪。頭痛くなりそう」
「ま、もう3階だしそろそろボス戦とか始まりそうだけどねん」
「そういうのいらないから黙ってて」

先程まで何も見つからなかった教室棟。出るわ出るわのアイテムに思わず舌を打つ。私の機嫌の悪さに呆れた顔をするザキとは対照的に一哉は大爆笑だ。一哉の口調がチャラチャラしてて軽いのはいつもの事だし、別に今更だけど正直今の状況でそのテンションはクソウザい。

「葉月」
「なに」
「なーに焦ってんの珍しい」
「は?」

苛立つ私に一哉が後ろから声をかけてくる。振り返れば一哉は私に背中を向けていてその表情は伺えない。

「別に俺たちお前のせいだとか思ってないしぶっちゃけ今ゲームみたいで楽しいよ?いつもみたいに余裕綽々な顔して高笑いしてなよ」
「…高笑いとか、した覚えないんだけど」
「いつもしてんじゃん、女王様」

いつの間にか追い込まれてた。どんどん増える傷も強くなっていくゾンビも。気づいたら、私が何とかしなきゃと思っていたのかもしれない。そんなこと、初めから思う必要なかったのに。一哉の言葉にふ、と肩から力が抜ける。

「あー、ほんっとムカつく。…でも、ありがと」
「うわ、きも。ザキー、明日雪降るかもー!」
「は?雪?意味わかんねえんだけど」
「ザキも、ありがと」
「?何だよ急に…何かすればいいのか…?」
「ほんっっっとお前らムカつく!素直に受け取れよばあああか!」
「いって!?何だよ!?」
「照れ隠しが乱暴すぎるんだけど」

一気に気が楽になって、頭が冴える。あのままじゃ見えるものも見えなかった。こんなこと普段なら死んでも言いたかないけど、小さな声でお礼を言えば一哉は私をまじまじと見た後ザキの元に走って行った。追いかけてザキにも同じようにお礼を言えば疑わし気な目を向けてくる。嬉しいやら恥ずかしいやらで緩みそうになる頬を押さえて二人の背中を叩いた。


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