体育館に戻り、そのままふらりと壁に凭れて座り込む。ぐらぐらとする頭の中で小さな光が見え隠れする。一瞬だけ見えたのは白衣の男とスーツの男、そして見覚えのない制服を着た西条サンらしき女の姿。それはすぐに消えてまた真っ黒な映像が頭の中をぐるぐると巡る。

「ぅ、ぇ…」
「え、ちょ、吐く?吐くの?」
「うっさい…黙れクソ…」

遊園地でコーヒーカップに乗って限界まで目が回った時みたいな気持ちの悪さに口元を押さえれば近くに腰を下ろしていた一哉が反応する。今お前のクソつまらない話に付き合ってる余裕とかないから黙ってろと文句を言おうと口を開くがあまりの気分の悪さに弱々しい声が出た。

「大丈夫か?」
「…そう見える?」
「見えないな」
「じゃあ言うなよ…」
「決まり文句だろう」
「そういうの今ほんといらない」
「すまない」

壁に体を預けて目を閉じていれば、隣に誰かが腰を下ろす気配の後に康次郎の声が耳に入る。ゆるりと顔をあげれば私をじっと見る康次郎が目に入る。何度か言葉を交わしてまた目を閉じる。肩に手が触れて、康次郎の方に引き寄せられるようにその手に力が込められる。されるがまま体を少し傾けて康次郎に凭れるようにして座る。

「次の探索は時間をあけてから行くらしい」
「ん…そうなの、」
「ああ。今のうちに休んでおけ」
「わかった…かた、かしてね…」
「ああ」

目を瞑れば押し寄せてくる眠気に体から力が抜ける。康次郎からかけられる声にぼんやりと返事をした後、自分でも驚くくらいすんなりと眠りについた。

〜〜〜

目を覚まして体を起こせば、ぼんやりとしていた頭と視界は幾らかクリアになっていた。背中を伸ばす様に伸びをすれば背中の骨がパキパキと音を立てる。まだ全快、とまでは行かなくても体は大分楽になった。

「ごめん、ありがとね」
「お前本当に寝てた?」
「は?寝たけど…何で?」
「お前が寝てからまだ10分経ってねえよ」
「まじ?」

立ち上がって膝を伸ばしながら、康次郎にお礼を言えば「気にするな」と軽く返ってくる。そんな私をじっと見る一哉とザキに首を傾げれば二人揃って微妙な顔をしていた。一哉は顔見えないんだけど。どうやら私が眠りについてから時間はあまり経っていなかったようで、私が目を覚ますまでが早すぎると二人揃って訝しげな表情をしていた。

「肩、ありがと」
「ああ。本当に今ので休んだのか…?」
「うん。結構頭すっきりしてる」
「そうか。花宮が起きたら来いと言っていたぞ」
「げぇ…まじか」

そんな二人に覚めた視線だけを返して座り込んだままの康次郎に声をかける。少し驚いたような顔で私を見る康次郎に苦笑いで返せば、ふっと表情を緩める。そのまま康次郎が指さしたのはまこちゃん達頭脳組が集まるステージ側。立ち上がったことで私が目を覚ましたことに気づいた他の面々の視線が集まる中で、私は表情を歪ませた。正直何度経験してもあのメンバーに混ざるのはちょっとしんどい。

「はいはい、お呼びですか。主将?」
「ふざけてんのか」
「まさか。はい、これでしょ」
「やっぱり葉月ちゃんが持っとったんか」
「…これを全員の前で読むのはさすがに混乱を招くかと思って」
「海常の人達は?」
「私が紙を拾ったことは知ってる。でも、中身についての言及はなかったから恐らく多少感づいてる、くらいだと思う」
「なるほど…。確かにこの内容は伏せた方が良さそうですね」

重い足を動かしてまこちゃん達の元に向かい、赤司とまこちゃんの間に腰を下ろす。「なんや、ワシのこと避けてるみたいやん」とニヤニヤ笑う今吉さんに「避けてるんですよ。気づけ」と返す。なんでこの人はこうも絶妙に人の嫌がることを言うのだろうか。八つ当たりと言わんばかりにまこちゃんにふざけて見せると心底嫌そうな顔で見られる。そんなに怒んないでよ。

まこちゃんが何故私を呼んだのかは分かっていた。ポケットから紙を取り出して赤司に渡す。今吉さんがそんな私を見て再度口元を緩める。無視してやろうかとも思ったけどそれはそれで面倒そうだと察して渋々返事をする。赤司が紙を見た後、ちらりと海常に目線を向けて私を見る。私が探索の時から何となく気づいていたことを告げれば納得したように小さく頷いてまこちゃん達にその紙を渡す。

「やっぱりそういう事か」
「簡単に脱出って訳にもいかなそうやな」
「問題はあの子だね。さっきも私と入れ替わろうとしてたし」
「あ?どういうことだ」
「やべ」
「どういう事ですか。朝倉さん」
「あー、いや。まあ、無事だったしいいじゃん」
「さっきの顔色はそういう事やったんか」
「あ、はは…」

紙を見たまこちゃんと今吉さんが納得したようにニヤリと笑う。この二人、こういう時は何となく雰囲気似てるよなあ…あ、まこちゃんの前で言ったら殴られるから言わないけど。なんて思っていたらうっかり口が滑って言うつもりじゃなかったことをぽろりと言ってしまう。やばいと思っても時すでに遅し。三人の鋭い視線が私に向けられる。へらりと笑って誤魔化そうにも誤魔化されてくれるような人達じゃないことはよく分かっている。これだからこの人達の所には来たくないんだ。


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