鍵は予想通り音楽準備室の物で、鍵を開けて中に入る。本来楽器が置かれていただろう棚が並び、身動きが取りにくい教室に思わず舌を打つ。今回の探索は私と西条さん、まこちゃんとザキと陽泉のため戦闘に関しては特に心配する必要はない。が、この教室の広さだと逆に違うメンバーだった方がよかったのかもしれない。思っていることはまこちゃんも同じなようで一度陽泉の奴らの方を見た後、教室を見て舌打ちをしていた。この密集したエリアででかい奴らが集まるのはあまりよろしくない。

「私、ザキ、氷室が一番奥。紫原、岡村さん、西条さんが入り口に一番近いところ。まこちゃん、劉、福井さんがその間で一回離れよう。ここにこの人数で固まってると動けない」
「花宮くんとは一緒じゃなくていいのかい?」
「いいの。私たちが固まったら逆に小細工しそうで怪しく見えるでしょ」

棚の中に何も入っていないお陰で、棚の死角にいない限りは大体誰が何をしているのかが把握できる。それでも前回みたいに西条さんが私に接触しようとすると困る為、物理的に距離を離した。もちろん私と西条さんの間にまこちゃんを置いたのもそれが理由だ。氷室を私と一緒にしたのは一番疑り深いコイツが私のそばにいれば陽泉の奴らも少なからず安心してくれるだろうと踏んだわけだ。わざと嫌味ったらしく氷室に笑いかければ肩を竦めてやれやれと言った具合で首を振っていた。いくら神経が図太いとは言っても私だっていつまでも疑いの視線を向けられ続ければ辛いものがある。

ザキを連れて歩き出せば氷室がその後ろからついてくる。本来楽器を置くためだけに作られたのであろう音楽準備室は棚が密集していて探索をする場所もそんなにない。棚の中は何も入っていない代わりに、所々に赤黒く変色した液体がこびりついていて、触るとパリパリと音を立てて剥がれ落ちていく。他に何かないかと視線を動かすと、ぐらりと景色が揺れた。体がぐらりと傾いて、咄嗟に目の前の棚に手をつく。体が、自分のものじゃないみたいだ。じくじくと痛みだす腕の傷と、荒くなる息。頭も割れそうなくらい痛くて、足に力が入らない。探索に出発した時から体調がよくないとは思っていたけれど、ここまで悪化するとは思っていなかった。

「っ、は…ぁ…」
「葉月?」
「ごめ、やばいかも…」
「は!?ちょ、おい!」

私の様子がおかしいことに気づいたザキが俯く私の背中に手を当てる。立っていられなくてガクリと膝が抜ける。突然崩れ落ちた私をザキが咄嗟に抱えて声を荒げる。それに気づいた氷室が駆け寄ってくる気配がして、頬に誰かの手が触れる。私が熱いのか、手が冷たいだけなのかは分からないけれどひんやりとした手が心地いい。焦ったような二人の声とゾンビのうめき声が聞こえて閉じている瞼を必死にこじ開ける。ぼんやりと見えたのはナイフを持ったゾンビと対峙する氷室の姿。背中に回ったザキの手にぐっと力が入ったのが分かって、動かない腕を何とか動かしてザキ手を伸ばす。

「ざ、き…いって、」
「お前はどうすんだよ!」
「このっ…せまっ、いばしょで、うごき、にくいのは…あっちも、おなじ、でしょ…っ」
「絶対ここ動くなよ」
「あ、はは…うごけ、ないっ、から…だいじょ、ぶ…」

この状態の私を一人で置いておくのが不安なのか私の傍から離れようとしないザキに無理やり笑顔を作って笑いかければ渋々と言った様子で納得してくれる。いくら氷室が喧嘩慣れしているとは言ってもナイフを持って、ほぼ人間と同じように動き回るゾンビを相手するのは大変だろう。開けた場所ならまだしもこんな狭い場所じゃ攻撃するのも防御するのも一苦労だ。でもそれはゾンビ側も同じことだ。移動するのが大変ということは離れた場所にいる私のところに来るのも大変という事。多少一人になってもこちら側にゾンビが来れないようにザキ達が動いてくれれば問題ない。

私を壁に寄りかからせるように座らせて、来ていたブレザーを私にかける。さっきよりもずっと体が重くて指を動かすのも辛い。意識を失ってしまえれば楽なのに、痛みと苦しみに対する意識がはっきりしている。声を出そうと口を開いても口から零れるのは荒い息だけ。ガンガンと頭が痛んで、胃から何かが上がってくる感覚。口を押さえようと手に力をこめるけれど、動いているのか動いていないのかも分からないくらいに体中が痺れて動かない。騒がしかった教室が静かになって、誰かに名前を呼ばれたような気がするけれど目は開かないし声も出ない。ただ苦しい感覚だけがはっきりとしている。少しして、ふわりと体が浮いて誰かに抱えられたのが分かった。


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