(side:H)

探索に行って戻ってきた葉月を見て正直心臓止まるかと思ったよね。荒い息でぐったりしながら花宮に横抱きにされて体育館に入ってきた姿を見て俺達は当然動揺したわけで。真っ直ぐにステージ前の赤司達がいる場所に向かった花宮がザキに向けて視線を送る。多分、俺たちに説明してろって意味だと思う。花宮に向けて頷いてこっちに向かってきたザキに古橋が詰め寄っていく。

「ザキ、どういう状況だ」
「ちゃんと説明するから落ち着けって。顔怖えよ」

普段から表情の変化がない古橋だけど今ばっかりは目かっ開いててめっちゃ怖い。瀬戸もいつもならお構い無しで寝てるけれど今はちゃんと起きてザキを見てる。かく言う俺もヘラヘラ笑ってはいるけど内心ドキドキしてるよ。一度、小さく息をついてザキが探索であったことを話し始める。原因は今回の探索じゃなくて、前回の探索だった。俺と古橋が一緒に行った音楽室で起きたことが原因だった。

言われてみればあの時、傷口を押さえて俯いてた。顔色も少し悪かったような気がする。葉月が怪我しようが何しようが俺たちのせいじゃないし、葉月本人も自分の不注意だって絶対言うから俺達が守れなかったせいで…みたいな茶番をする気は毛頭ない。けれど、それが命に関わるもので、俺たちが気づけるレベルのものだったとしたらそりゃ、ちょっとくらいは気にしちゃうじゃん。

「…平気なんでしょ」
「は?」
「花宮も焦ってるっぽいけどそこまで取り乱してないってことは葉月を助ける算段は付いてるってことでしょ?」
「まあ…それは…」

らしくもない。こんな気分になるなんて。やっぱりこんな環境にずっと置かれてたら変になっちゃうのかな。普段なら絶対感じることのない不安という感情を押し殺すように口を開けばザキがきょとんとした顔でこっちを見る。花宮だけならまだしもザキもそこまで取り乱してない。もしこれで助ける手立てもなくて本当にやばかったら花宮もザキも、きっともっと取り乱してる。

「保健室から持って帰ってきた物の中に解毒薬あったよね。それ飲ませるつもりなんでしょ」
「やっぱり瀬戸もそう思う?俺もそれだろうなって思ってた」
「でもこんな場所で入手した解毒薬とか怪しすぎるよね」
「それも思ってた」

不安なことは間違いないけど、今俺に出来ることはそんなにない。今だって花宮が保健室から持って帰ってきた救急箱を片手に赤司達と真剣な顔で話してる。そんな花宮達を見て古橋がポツリと呟いた。

「仮に、あの瓶の中身が薬でなかったとしたらあまりにもくどすぎないか」
「?なに、どしたの?」
「もしトラップを仕掛けるとしたら回復薬とでも書く方が自然だろう。回復薬なら死ぬほどのダメージを受けていなくても飲むだろうからトラップとしては最適だが、解毒薬は本来毒を受けた時に飲むものだ。つまり毒を受けた人間に毒を盛った所で結末は変わらない」

そこまで言いきって古橋がすっと立ち上がる。真っ直ぐに葉月の元に歩き出した古橋は多分花宮たちに薬を飲ませることを提案しに行ったんだろう。俺もついて行こうかな、って思ったけど今回は行かないでおこう。

「花宮、さっきの話聞いてたんだろう」
「ああ。こっちも同じ話してた」
「なら…」
「はい、朝倉さんに解毒薬を飲ませます。古橋さんにお願いしてもいいですか」
「…分かった」

花宮の前に立って口を開く古橋に花宮が頷く。赤司が置いてあった解毒薬の瓶を一つ手に取って古橋に渡す。古橋がそれを受け取ってすぐ近くで横になっている葉月の上半身を抱き起こす。苦し気に歪んだ葉月の表情に古橋の表情も少しだけ歪む。汗で張り付いた前髪を人差し指で撫でて、瓶の口を葉月の口元に近づける。

瓶を少しずつ傾けて葉月にゆっくりと薬を飲ませる。口に入らずに零れた解毒薬が口の端を伝ってぱたりとワイシャツに落ちる。徐々に葉月の荒かった呼吸が落ち着いてきて、穏やかな呼吸に変わる。青白かった頬に少し色が戻って、少しマシになった。古橋が空になった瓶を床に置いて、口の端を伝っていた薬を親指で拭い取った。

…今この場でこんなこと思うのも変な話なんだけど、ていうかこんな場所だからなのかな。多分今このシーンを見ちゃったからだと思うんだけど、ここにいる間中にきっと面白くなると思うんだ。何がって古橋と葉月の関係がさ。

あの二人、気づいてないけど多分お互いのこと結構好きだと思うんだよね。大事な友人って意味なのか、ほんとに恋愛の意味かは正直分かんないけどさ。今この状況だったら天然鈍感バカの古橋が勘違いして恋愛感情と見間違えちゃったりしそうじゃない?そしたらすっごい面白いことになりそうじゃん。葉月は意外とそういうの敏感だけど古橋に対しては絶対的信頼置いちゃってる分鈍感になってると思うんだよね。

「早く起きろっつーの。お前がいなきゃつまんないじゃん」


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