「葉月さん!!!」
「っ、わぁ!?」
「よ、かったあああ…まじほんと…」
「あー、いや、うん。ごめん」

まこちゃん達からまだ休んでいるように言われて、渋々一哉達の元に戻る。腰を下ろして息をついたのも束の間、後ろから飛んできた声に振り返ると走ってきた高尾がそのままの勢いで飛び込んでくる。受け止めきれずに後ろに倒れそうになった所を康次郎が支えてくれて、何とか後頭部強打は免れた。少し泣きそうな声で安堵のため息を吐く高尾に何だか申し訳なくなる。首に巻きついた腕も、肩に押し付けられる顔も、普段なら押し退けているけれど今ばっかりは微かに震える高尾の背中を優しく撫でてあげるしかなかった。

「なに?泣いてんの?」
「泣いてないですよ!つーか、目の前で先輩が死にかけてて怖くないわけないっしょ!?」
「…そりゃそうだわ。うちの連中がおかしいだけだったわ、ごめん」
「まあでも、霧崎の人達も結構焦ってましたよ」
「え?」
「葉月さんめっちゃ愛されてんなあ〜って思いながら見てました」
「お、おう…そっか…」

高尾の背中をぽんぽんと叩きながら茶化せば、ガバリと私から離れて勢いのいい返事が来る。確かに良く考えれば普通の高校生が人の生き死にに関わる場面を見ることなんてまずない。ましてや自分の身近な人間に死が迫っているともなれば多少なりとも恐怖を感じるものだろう。まこちゃん達がけろっとしてるからあまり気にしていなかったけれど、私達の感覚がおかしいだけだ。再度謝れば一瞬キョトンとした後にイタズラそうに笑って、高尾が耳元に顔を寄せる。小さな声で言われた言葉にどうリアクションすればいいのか困って吃ると「めっちゃ動揺してる」とゲラゲラ笑われた。

「ま、一番焦ってたのは古橋さんですけどね」
「えっ」
「高尾、」
「おーこわこわ。じゃ、葉月さん元気みたいだし俺は戻りまーっす」

嬉しいやら気恥しいやらでどうリアクションすればいいものか困っていると高尾が爆弾を落とした。思わず驚きで間抜けな声が出て、反射的に後ろにいた康次郎を見るとムッとした顔で高尾を睨んでいた。睨まれた高尾は怯えることもなくヘラリと笑って逃げるように秀徳のメンバーが座ってる場所へと歩いていく。高尾のせいで物凄く微妙な空気になってしまった。アイツまじほんとに何してくれてんだ。康次郎も頼むからなにか言ってくれ。あと、後ろでゲラゲラ笑ってる一哉とザキは後で絶対殴る。絶対。

「何?私のことそんなに心配だった?」と茶化しても良いけれど康次郎のことだから真剣な顔で「当然だろう」だとか言いかねない。そうなった場合、茶化した私が恥ずかしい目に合うだけで終わってしまうから何としても避けたい。かと言って「心配してくれてありがとう」なんて素直に言うのも何となくキャラじゃないというか、気恥ずかしくて今更面と向かって感謝なんて言えない。この場合は何て言うのが正解なのか、と頭を必死に動かしていると赤司の凛とした声が響き渡った。まさに、鶴の一声だ。

「次の探索ですが、秀徳の皆さんにお願いししまう」
「んで、葉月ちゃんと西条さんも一緒に頼むで」
「は、はい!」
「おっ、ようやく出番じゃん。な〜?真ちゃん!」
「うるさいのだよ」
「辛辣!」

赤司の声によっしゃ、と立ち上がる秀徳のメンバーと名前を呼ばれて立ち上がる西条さん。楽しそうな高尾とは裏腹にあまり乗り気ではない様子の緑間。三年組はさすがに落ち着いているようで楽しそうにする高尾に「静かにしろ」と注意していた。ウチからは誰が出るんだろうとまこちゃんに視線を移せば、私をじっと見た後立ち上がってこちらに向かって歩いてくる。怒っている訳でもなければ機嫌がいい訳でもない。初めて見るまこちゃんの様子に戸惑っていると私の目の前でピタリと止まる。

「え、えっ…あの、なんでしょうか…」
「ンだその口調」
「だ、だって何か…まこちゃんいつもと違うから…」
「…はぁ。具合は」
「はい?え、あ、元気、です」
「ならいい。健太郎、一哉、お前らも一緒に行け」
「はいはい」
「おけー」
「…え、な、何だったの…今の…」

私をじっと見つめたまま動かないまこちゃんに話しかけると少しだけ眉間にシワが寄る。私の答えにため息をついてから、たっぷり時間をかけてまこちゃんが口を開く。一瞬何を聞かれているのか分からずに戸惑った後、元気だと答えればスっと視線が私の後ろに逸れる。えっ、あの、なに。何ですか。名前を呼ばれた健太郎と一哉が呆れたように立ち上がって私の手を引いて歩き出す。なに?まこちゃんのあれは心配してたよってことでいいの?あんな露骨に心配でしたみたいな顔されるのすごい、なんか、こう…変な感じがする!むずむずする!

「言っとくけど、心配してたの花宮だけじゃないかんね」
「え?」
「俺らも心配したし、ちゃんと着いていけば良かったって思ったよ。一緒に行ってない俺らがそう思ったんだから花宮はもっと思ってたんじゃない?」
「…うん」

私より少し先を歩いてた一哉が私の心を見透かしたように口を開く。思わず足を止めた私に振り返った健太郎が私の頭をぽんぽんと二度撫でてまた歩き出した。自然と頬が緩んでしまったけれど私は悪くない。仲良しこよしをしてるつもりはないけれど、普段あんな奴らに心配してましたなんて言われたら嬉しくもなる。歩き出した二人の背中を追って私も歩き出した。


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