「ねえ、何これ?」

体育館から出発してすぐ右手は一哉に、左手は高尾に取られた。まあ、つまるところ手を繋いでいるわけだ。当然だろと言わんばかりの顔で私の手を取った二人に首を傾げるけれど、二人は全く聞いていないようで私を挟んで楽しそうに話している。おい、ふざけんな。話を聞け。

「おいバカ二人」
「めっちゃ機嫌悪い!」
「どしたの葉月ちゃん」
「これ、何?なんで手繋いでんの」
「え〜?葉月がどっか行かないように?」
「どっかって…どこにも行かないわよ」

動きにくい上に自分より大きい二人に挟まれて歩いてると捕まったみたいでムカつく。私の機嫌の悪さにゲラゲラ笑う人間がいつもより一人増えてる時点でムカつかない訳が無い。繋がれた手を指差そうにも両手が使えないんじゃ、それもできない。顎で手を指せば一哉がヘラリと笑って返事をする。どっか行かないようにって…小さい子じゃないんだからさすがにそんなにフラフラしない。呆れながらそう返せば反対側から反論の声が上がった。

「いーや、葉月さんはそういうこと言って一人で無茶するからダメっすよ」
「もー…歩きにくいんだけど…」
「これくらい我慢しろよ。俺らがどんだけ心配したと思ってんの?」
「うっ…それは…その、ごめん…」
「ってことで、手繋いでましょ!ね?」

高尾がイタズラそうに笑って言った事に即座に否定かできなかった。まあ、確かに…手っ取り早いから自分で仕留めたがるけど…。そんな本心を誤魔化すように繋がれた手を振って離せとアピールするけれど一哉の言葉にその抵抗もすぐにできなくなる。痛いところを突かれて言葉に詰まると、待ってましたと言わんばかりに高尾が満面の笑みを浮かべる。この二人初めからそのつもりだったな。

二人に手を繋がれながら次の教室へと向かう。カチリと軽い音がして鍵が開いたのは第一図書室。木を隠すなら森の中、というように何か情報が紛れているかもしれないと少しの期待を抱いて中に入る。さすがに両手を塞がれた状態で探索はできない為、手は離してもらったが常に隣に一哉か高尾がいる。ちょっと移動すればくっついてきて完全に金魚のフン状態だ。さすがにここまで来ると邪魔。

「あのさあ…邪魔」
「そんなこと言ったってお前すぐいなくなるじゃん」
「なんないしもう一人で無茶苦茶しないから」
「信用出来ない」
「あ?」
「じょーだんだって。文句なら古橋に言ってよ」
「康次郎?なんで?」
「古橋が絶対目離すなって言うから俺が見張り役してんの。で、高尾はそのオマケ」

お分かり?と首を傾げる一哉に一応頷いておく。まこちゃんがそう指示を出すならまだしも康次郎がそういうことを一哉達に頼むっていうのには何となく違和感がある。あの件に関しては私の不注意が原因で別にあの場にいた誰が悪いって訳じゃないんだからそこまで康次郎が気にすることなんてないのに。そう思うと自然と小さなため息が零れた。

目の前にある本の棚は一哉達の身長よりも高くてかなり大きい。これを全て調べるのは骨が折れそうだが、わざわざ全てを調べる必要なんてない。今までも脱出に必要なキーワードやアイテムは他のものとは違う色や形をしていた。つまり、この図書室にアイテムや情報があるとすればそれ相応に分かりやすくなっているはず。沢山ある黒い背表紙の本を適当に取って開けば案の定中身は白紙。

「やっぱ全部調べなきゃいけない訳じゃないってことか」
「そういえば職員室の時も同じだったよ」
「まぁ、この辺の同じ背表紙の本はシカトしていいと思うよ」
「ん、了解」

白紙の本を片手に呟いた私の小さな声は隣にいた一哉に聞こえていたようで、一哉が思い出したように口を開く。いつの間にか近くに来ていた健太郎が目の前に並ぶ本の背表紙を人差し指でなぞりながら呟く。健太郎の言葉に返事をしながら本棚に並ぶ本の背表紙を目で追う。少し離れた場所で「全部白紙じゃねえか。これ全部調べなきゃなんねえのかよふざけんな焼くぞ」と苛立つ宮地さんの声が聞こえて、思わず隣にいた健太郎の方を向く。

「…え、秀徳に言ってないの?」
「あ、忘れてた」
「何を忘れてたんすか?」
「げ、高尾」
「えっなに…何でそんな嫌そうな顔してんすか」
「別に。ただ調べるのは黒い背表紙の本以外でいいってことを秀徳に言ってなかったって話」
「ぶはっ!それは宮地さんがキレるやつじゃないすか!」
「声がでかいよバカ」

私や一哉は当然のように気づいていたから言われなくても調べる本を限定してたけど、秀徳はそうじゃない。正直にいえばこの程度自分で気づけよって思うけど、そんなことも言ってられない。かと言って今更それを言えば宮地さんがもっと早く言えだの何だの言うのは目に見えてる。あの人面倒だから嫌なんだよなあ…なんて思っているとどこからか現れた高尾が隣で首を傾げる。健太郎が話の内容を教えればゲラゲラと腹を抱えて笑い出す。

うるさい、と頭を軽く叩けばサーセンと軽い返事。高尾には、宮地さんに今のことを言わないように念押しをする。私たちの方が効率のいい探し方をしてるんだから私たちの方が早く見つけられるに決まってる。さっさと見つけてしまえば、たまたま私たちの近くにアイテムがあって、たまたま私たちが見つけたことにできる。そうすれば宮地さんの面倒な言及からも逃れられる。そう高尾に伝えれば「ほんっと葉月さんのそういうとこ好きだわ」とゲラゲラ笑われた。


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