一哉がゾンビを引き付けて、その間に高尾が一匹ずつ視線を逸らして誘導、そしてその一匹を全員で確実に仕留める。面倒くさそうに見えるけれど、ナイフを持ったゾンビ相手じゃこれが一番最適解だと思う。まあ、全員で仕留めるとは言っても使えない奴らが隣でわちゃわちゃしていると邪魔なだけだから正確には全員ではないが。私から少し離れた場所で宮地さんと木村さんに挟まれて待機してる西条さんは、ゾンビと戦う一哉達を気にしているように見せつつ私の様子も伺っている。敵意の視線はバレバレだ。

「っ、やべ」
「高尾!」
「あのバカ…っ!」

一瞬、ぐらりと高尾の体が傾いて高尾の表情がサッと変わる。その隙を狙うように距離を詰めたゾンビに全員が息を呑んだ。反射的に体が動いてぐらついた高尾の腕を思い切り引いて、自分の方に引き寄せる。高尾と位置を入れ替えるようにゾンビの前に立ち、そのまま足を振り上げる。私の勢いとゾンビの勢いが合わさって、思い切りゾンビの顎に私の蹴りが入って音を立てる。グラリと後ろに倒れるゾンビを横目に、同じようにバランスを崩す高尾を支えて立つ。少し乱れた制服のスカートを軽く叩いて直し、高尾がちゃんと自分の足で立っていることを確認して手を離す。

「大丈夫?」
「…葉月さんかっこよすぎでしょ…惚れちゃう…」
「はあ?」
「やばい…今のはかっこよかった…」
「アホか」

ぱっちりと目を見開いてこちらを見る高尾に首を傾げると、おかしなことを言いながら両手で顔を覆い始める。思わず口から間抜けな声が零れるけれど、正直私を見て頬を染める高尾の方がよっぽど間抜けだ。固まる高尾の頭を軽く叩いて一哉の方を見れば最後の一匹を仕留めていた。大きく横に振られたゾンビの腕をしゃがんで躱し、右足で足払いをかける。バランスを崩して後ろに倒れたゾンビが起き上がる前に手からナイフを蹴り飛ばして、頭を潰す。

五体いたゾンビはあっという間にいなくなり、図書室に一瞬の静寂が訪れる。いつもの様にドロップアイテムとして鍵が出てくるのかと思い、先程までゾンビがいた場所に目を向けるが鍵らしきものは疎かアイテムすら見当たらない。他にも何かしなければならない事があるのかと思いながら辺りに目を向けると、最初に倒れた本棚の下にキラリと光る物がある。勝手に動いて文句を言われるのも嫌なので健太郎に声をかけてから倒れた本棚へと足を向ける。

「…なんだろ。鍵、かな?」
「届く?」
「んー、ギリギリ行けそう」
「何床に這いつくばってんの?そういう気分?」
「どんな気分だ。情緒不安定かよ」
「嘘嘘、ジョーダンだって」
「ほんと今そういうのウザい」

しゃがんで倒れた本棚の下を覗けば、暗くて判別は付かないが何かがある事だけは分かる。隙間の幅的に腕が入るのは私が西条さんだけだが西条さんに鍵を渡すのは何とも言えない為、必然的に私が取ることになる。届きそうで、届かない。そんな微妙な場所に落ちている鍵に手を伸ばしていると後ろから来た一哉がぷくく、と笑う。わざと聞こえるように舌打ちをしてキッと睨みつければ両手を顔の横に上げて、ケラケラと笑っている。

落ちていたアイテムに手が届いた、とそう思った瞬間だった。視界の端でゆらりと動いた影が真っ直ぐこちらに向かってくる。さすがにこんなに人がいる場所でそこまで分かりやすく仕掛けては来ないだろうとタカをくくっていたが、どうやらそれは間違いだったらしい。態とらしい悲鳴と同時に傾いた彼女の体は真っ直ぐに私の腕の上にある本棚に向かっていた。このままこの本棚に彼女の体重が乗れば私の腕はかすり傷程度じゃ済まなくなる。まず間違いなく床と本棚の間に挟まれて大怪我だ。

ああ、痛いんだろうなあ…なんて他人事のようにぼんやり思いながら倒れてくる西条さんを見る。やって来るであろう痛みに備えて、ぐっと歯を食いしばり目を閉じる。が、いつまで経っても痛みは襲ってこない。恐る恐る目を開けてみれば宮地さんに抱えられた西条さんが目に入る。背後から彼女の腹部に回った腕が、倒れそうになった西条さんを宮地さんが助けたことを証明していた。加えて、悔しそうに歪められた彼女の表情が何をしようとしたのかを物語っていて、その潔さに思わず笑いが零れそうになった。

「まだ届かないの?腕短くない?」
「うるさいんだけど。黙って」
「いや機嫌悪すぎでしょウケる」
「誰のせいだと思ってんのよ、誰の」
「何?俺?ほんっと葉月、俺のこと大好きだよね。俺のことばっかり考えてんじゃん」
「ほんとに調子に乗んなよ、お前」

指先に触れていたものを手繰り寄せていると背後から一哉が声をかけてくる。やたらと楽しそうなその声に返事をしながら本棚の隙間から手を出し、立ち上がる。楽しそうに弧を描く口元にイラつきを隠すことなく口を開けば一哉が楽しそうに笑う。ほんとにさっきから何なんだコイツ。


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