何故か楽しそうな一哉を横目に手の中の鍵を健太郎に渡す。受け取った鍵を胸ポケットにしまって、チラリと西条サンに視線を向けた健太郎がそのまま私に視線に移す。肩を竦めて見せれば呆れたような表情で小さくため息をついてたいた。西条サンが私を手にかけようと必死になっている所を見るに、恐らくそろそろ脱出に近づいているのだろう。理由は何であれ彼女が私を狙っているのは間違いない。

「…なーんかやな感じ」
「露骨に狙ってきてるし、正当防衛ってことで手出しちゃえば?」
「あの子にいなくなられて私たちの脱出が難しくなるのは困るから無理」
「まあ、手出すならあの子を仕留めても俺達に害がないって明確に分かった時だよ」
「うっわ。割と初めから仕留める気満々ってわけ?」

宮地さんや大坪さん達と仲良さげに話す西条さんを眺めながら呟けば隣に立っていた一哉がケラケラと笑い始める。頭は悪くないのに色んな意味で手が早い一哉に反対の意を唱えれば健太郎がそれに賛同してくる。私も健太郎も今は、手を出さないと言うだけで別に絶対に手を出さないなんて言ってない。彼女が私達にとって邪魔な存在であると確定した時点で仕留める覚悟はもう出来てる。

「んじゃま、無事に鍵もゲットできたことだし戻りますか!」
「そうですね…」
「あれ、西条さん元気なくなーい?どしたの?」
「あ…えっと、その…ちょっと、怖くて…」
「そりゃそうだろ。こんな場所に連れてこられて、俺らだって怖いんだから西条が怖くない訳ねぇだろ」
「宮地さん…」
「…ま、そっすよね〜!でも葉月さんは平気でしょ?」

少し静かになった図書室で声を上げたのは高尾だった。その声に皆が頷くけれど、その中でたった一人西条さんだけが顔を青くしていた。私を仕留め損なってそろそろ焦ってきているのだろうか。高尾がわざとらしく西条さんに話しかければ少し焦ったように目を泳がせて、どう見ても演技にしか見えない涙を浮かべた。隣でうっわ、と引いた声を上げた一哉に対し、宮地さんが正反対の声を上げる。宮地さんの言葉に対して、今度は健太郎が隣でうわ、と声を上げる。

嫌になる気持ちは分かるんだけどそんな露骨に声出さなくても。とは思うが、まあ気持ちは分からないでもない。誠凛と一緒に来なければこんな青春ごっこを見なくて済むだろうと思っていた私が浅はかだったのだ。まさか、秀徳と一緒に探索に来てこんな青春ごっこを見せられるなんて。誰にも見えないように小さくため息をついていると、話題に困ったのか何なのか高尾が私に話を振ってくる。この状況で、しかもその話題を私に振ってくるのかと苛立つ心をそのままに高尾を睨めば「あ、はは…」と乾いた笑いで返ってくる。後で覚えとけよ、と視線で訴えて口を開く。

「別に。物理攻撃が効くなら怖くないよ」
「そんな武力行使みたいな」
「ゴリラかよ」
「死ね一哉」
「こわーい!とかないんすか?」
「あったらどうすんのよ」
「え、ビビります」
「お前も死ね」
「ちょ、辛辣!」

私の返事に引き攣った笑いを浮かべる高尾の隣で口を開いた一哉に冷たく返せば、今度は高尾がニヤニヤと笑いながら口を開く。答えの分かっている質問を敢えてしてくる高尾にも一哉と同じように返事をすればゲラゲラと笑い始める。死ねって言われて喜ぶのほんとにお前らだけだからな。最早、一周まわって呆れてしまう。はあ、と大袈裟にため息をつけば健太郎が私の隣で小さく笑う。

「なに」
「ため息多いね」
「そりゃため息もつきたくなるでしょ」
「まあでも、そろそろ終わりだろうし頑張ろうよ」
「…頑張るって言葉がこんなに健太郎に似合わないとは思わなかったわ」
「だろうね。俺も今言ってて思った」

ゲラゲラ笑う一哉と高尾から視線を外して健太郎を見る。二人でゆるゆると会話をしているとどんどん力が抜けてくる。へらりと笑って返せば「そうやって笑ってなよ。さっきまですごい顔してたよ」なんて言われる。すごい顔ってどんな顔だよ、と思いながらも健太郎なりに気を使ってくれたのかと思うと嬉しいような、恥ずかしいようなで頬が緩んだ。

「ありがと」
「何が?」
「ううん。何でもない」
「なーにイチャついてんの」
「一哉には関係ない」
「えー!じゃあ俺には教えてくれます?」
「高尾も関係ない」
「「えー!ひどーい!」」
「うっさい」

健太郎の肩を軽く叩いてお礼を言えばキョトンとした顔で返される。ほんと、こういう所がいい男だよね。知らないフリをしてくれているのに態々理由を言う必要もないだろう、と首を横に振れば健太郎がまた小さく笑った。二人でこそこそ話しているのが気になった一哉と高尾が絡んでくる。しっしっ、と手で追い払うようにすれば二人してぶうぶうと文句を言い始める。それにしても、アンタ達いつもの間にそんなに仲良くなったの。


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