探索から戻ってきた桐皇の報告は私の予想通り進展なし。やっぱりガラス玉を何とかしないと先に進めないのだろう。その考えは私だけじゃなくてまこちゃん、赤司、今吉サンなんかも思っていたようだった。考えられる可能性を全て試そうにもガラス玉を使って開ける扉なんて今までに見ていないし心当たりもない。

まして、ここから脱出する為のアイテムだとしたら別の手がかりを探さなきゃいけなくなる。そうなると必然的に今試せるのは『特定の誰かが持った時にのみ効果を発するアイテム』という可能性だけになる。それも頭のいい彼らは分かっていたみたいで、とりあえず1人ずつ持ってみるという何とも簡単な方法を試すことになった。

「誠凛から順に持ってみてください」

「何も起きなくて詰んだりしてねー」
「これで何か起きてくれないと困るんだけど…」
「どうする?なんか召喚されたら」
「仲間にしたらいいんじゃない?」
「召喚されたのがゾンビでも仲間にするの?」
「意思疎通できるならいいんじゃない」
「葉月、適当でしょ」
「うん。当たり前じゃん」

ありえねー、と隣で床に寝転がる一哉を見てガラス玉を持つ赤司に目を向ける。ガラス玉が赤司の手から誠凛の主将に渡って、次に誠凛のPG、という風に回っていく。全く何も起きねえじゃん、と思ったその瞬間だった。黒子からガラス玉を受け取ろうとした西条サンが「いたっ!」っと声を上げてガラス玉を落とす。皆が床に落ちたガラス玉と西条サンを交互に見て何とも言えない顔をした。

「大丈夫ですか!?」
「う、うん…テツヤくんも大丈夫…?」
「僕は平気です。それよりも何で…」
「わかんない…触ろうと思ったら急にバチって…」
「それ以外に何かおかしな点はありましたか?」
「う、ううん…特に…」
「そうですか…西条さんの他にも触れない人がいるかもしれません。一応全員ガラス玉に触れておきましょう」

ガラス玉に触れる事ができなかった西条サンの表情が暗くなる。誠凛の奴らが大丈夫だとかなんとか言って励ましていて、それを聞いた西条サンの表情がすこし明るくなる。単純か。赤司の指示で海常、秀徳、桐皇、とガラス玉に触れるけど西条サンみたいに触れられない人はいない。

陽泉、洛山も問題なく全員触れることができて、霧崎も言わずもがな全員セーフで私の番が回ってくる。これで私も触れることが出来なければ私とあの女が何かある、ということになる。逆に私が触れられたらあの女に何かあることになる。個人的には後者がいいな、面倒だからと思いながらまこちゃんの手に乗るガラス玉に手を伸ばす。

「……………」
「……………」
「触れたね」
「触れたな」
「無駄に緊張しただけだったね」
「ふはっ、緊張してたのかよ」
「触れなかったら面倒だなあって」
「そうかよ」
「まこちゃんもちょっと緊張してた?」
「んなわけねえだろ、バァカ」
「どうする?この微妙な空気」
「知るかよ」
「触れなかったのは西条さんだけ、ですか…。何か異変があった人は他にいますか?」

あっさりガラス玉に触れた私に周りの皆がキョトンとする。そんなに私が触れなきゃいいのにとか思ってたのかこいつら。おいこら一哉、ガッカリしたような顔してんじゃねえよ。周りの様子に文句を言いながらまこちゃんと顔を見合わせる。そんな私達の徐々にふざけ出す会話を打ち切るように赤司が口を開く。ガラス玉に触れたことで何か異変が起きた人はただひとり。正直私の中ではあの女の疑いがどんどん深まってる。

「あ、あの…私…」と涙を浮かべて不安げな顔をする西条サンを見ていると健ちゃんから「顔やばいよ」と言われた。あ?ブスって言いたいのか、100回くらい死ね。眉間にシワがよってすごい顔になってる事は自覚済みだよ。わかってる、だってあの女がちょっとムカつくもんだからさあ!そう思いながら「大丈夫よ!姫ちゃんには私達がついてるわ!」「そうだよ!姫ちゃん!」「リコさん…さつきちゃん…」と茶番を繰り広げる三人を冷めた目で見つめ…たかったけどちょっと限界。

「気が済んだ?今そんな茶番劇する余裕ないと思うんだけど」
「なっ…!茶番ってアンタねえ…!」
「姫ちゃんがどれだけ不安か分かんないんですか!?」
「分かんないし分かりたくもない。それに不安なのはその子だけじゃないでしょ。悲劇のヒロインごっこしたいなら違う場所でやって」
「わー、葉月きびしー」
「いや、ここまで我慢出来ていたことを褒めてやるべきじゃないか」
「ま、どうせ葉月が言わなくても花宮が言ってたんじゃねーの?」
「花宮も葉月もさっきからイライラしてたからね」
「外野うるさい」
「「「「はい、スイマセンデシタ」」」」
「葉月の言う通りだな。その女がガラス玉に触れなかったことになんの意味があるのかも分かってねえんだ。茶番する暇があんなら頭使えよ」
「まあまあ、花宮も葉月ちゃんもそこまでにしとき」

私の口から出てくる言葉に返ってくるのは予想通りのものばかりでつくづくガッカリだ。まこちゃんも私と同じくイライラしてたみたい。私達二人の言葉に怒りの表情を浮かべる誠凛のカントクと桐皇マネが文句を言うために口を開こうとした瞬間、今吉サンの緩い声が響き渡る。ニコニコ笑っているけど「喧嘩してる場合とちゃうやろ、自分ら頭ええんやからもう少し考えて行動せぇ」という副音声が聞こえてきた。隣をそっと見るとまこちゃんも嫌そうな顔で口を閉じていた。やっぱりこの人怖い。

2017/11/30 執筆


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