花宮が部室の扉を開けた瞬間、目の前が真っ白になった。立ちくらみだとかそういうのじゃなくて目を開けていられないほどの強烈な光。ゆっくりと目を開けて何度か瞬きをして徐々に視界がはっきりしてくる。そして、私は自分の目を疑った。

「なに、これ...」

目の前に広がる草原に思考がついていかない。何が起きているのか全く理解出来ずに辺りを見回す。そして、視界に入ったチームメイトの服装に、また自分の目を疑った。本に書いてあった職業通りの格好をしていたから。もちろん、私も職業通りの格好だ。

「どゆこと?」
「俺達、部室にいたよな?」
「...どこでもドア」
「古橋今ほんとそういうのいらない」

原とザキが首を傾げている隣で古橋がぼそりと呟く。全く焦っているように見えないけどコイツも内心いっぱいいっぱいなんだと思う。けど、ここに来てまでボケなくてもいいと思うんだ。

「花宮、さっきの本なくなってる」
「...なるほどな」
「花宮何か分かったの!?」
「確信はねえけどな」
「さっすがー。学年一位は違うねー」
「で、何が分かったんだよ」

花宮が辺りを見回して、瀬戸が持っていた本がなくなったことを聞いて顔を顰めながら呟く。原とザキがその呟きに驚いた声を上げて花宮に詰め寄る。多分この中で察せてないのはあのバカ二人だけだと思う。

「此処は本の中の世界だ」
「「...は?」」
「やっぱりね」
「予想していた通りだな」
「えっ、待って全員気づいてたの!?」
「気づいてないのあんた達だけだよ」
「マジかよ!つーか気づいた時点で言えや!」
「確信がないのに無闇に発言できないでしょ」

花宮の言葉にやっぱりな、と肩を竦める私達に原とザキが声を上げる。本の中の世界、と言ってもあの本の中にストーリーは描かれていなかった。つまり、私達があの本のストーリーを作らなきゃいけない、ということ。そして、名前の隣に記されていた職業から考えるに敵が出てきて、それを倒して、みたいな展開になるんだろう。結末は定番のボス撃破、といったところだろうか。

「にしても...」
「あ?」
「衣装似合いすぎじゃない?」
「...はぁ?何言ってんだお前」
「いや何か、しっくり来すぎてキモい」

花宮の職業は黒魔導師(ウィザード)で服装は黒いローブ。瀬戸は白魔導師(ヒーラー)で服装は白いローブ。職業はもちろん服装まで対になっていて、普段と変わらない役回りだなと変に感心する。

古橋の職業は死霊術師で服装はポンチョ位の丈のフード付き黒コートに黒いパンツとショートブーツ。私は召喚士(サモナー)で古橋と同じデザインの白コートと白のショートパンツとショートブーツ。花宮と瀬戸が対だったように私と古橋も対になっているようだ。

原は盗賊(シーフ)で服装は黒いノースリーブジャケットとレザーパンツ、そしてショートブーツ。ザキは狩人(ハンター)で服装は某RPGゲームに出てくる勇者の様な白と緑の服に茶色のショートブーツ。ご丁寧に濃い緑のマントまで付いていた。ザキだけ既成物感が拭えない。

「原とザキは近接戦で、私と古橋はその援護、花宮と瀬戸が全体指揮及び援護、みたいな感じかな」
「多分ねー。俺とザキのメイン装備ナイフだし?マチェットとか使ったこと無いんだけど」
「俺だってタガーナイフとか使ったことねえよ。つーか、俺弓も持ってんだけど使えってこと?」
「そうなんじゃない?あ、ブーツナイフもある。隠し武器みたい」
「弓とか撃ったことねえよ...」
「全員何かしらの武器は持ってるみてえだな...」
「まあ、職業的に俺達が直接敵と殺り合うことは無さそうだけどな」
「原とザキ以外は呪文唱える系だもんね。てか、古橋鎌似合いすぎじゃない?」
「葉月のレッグシースも似合ってるぞ」
「これはちょっと付けてみたかったから嬉しい...ってそうじゃなくて!これからどうすんのよ...」

ポツリと呟いた私に原が同意を示す。原とザキがいると話が逸れるのはいつもの事で、今回もいつもと同じ様に話が逸れたけどこれまたいつもの様に花宮が話を元に戻した。まあ、その戻した話を私がまた逸らして古橋が乗っかるところまでがいつもの光景なんだけど生憎今回はそんなおふざけしてる余裕はない。

「とにかく状況を整理するぞ」

花宮の声にぴりりと空気が引き締まる。何だか嫌な予感がしてぞわりと鳥肌が立った。ばくばくと音を立てる心臓を落ち着かせるためにコートの裾を握りしめた。

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