「すみません。彼女、僕の連れなので離してもらってもいいですか?」
「あ?誰だよ、アンタ」

凛とした声が響いて、さっきまでゲラゲラ笑ってた男達が静かになる。邪魔されて、如何にも不機嫌ですと言わんばかりの顔をする男達に彼は爽やかに笑う。男達の気が緩んだその一瞬だった。優しく腕を取られて、引かれる。ぼふっと何かに体がぶつかって、背中に手が添えられる。

「彼女は返してもらいますね」
「なっ…!てめぇ!」
「おっと。暴力は止めてください。警察に捕まりたくはないでしょう?」
「チッ…んなブサイクな女こっちから願い下げだっつーの!」

男の怒る声が聞こえた後、ばちりと何かがぶつかる音がする。びくりと肩が揺れて咄嗟に近くにあった服の裾を握る。背中に回っていた手にぐっと力が入って体が密着する。少し威圧的な彼の声に男達は舌打ちをして去っていく。もれなく私への暴言付きで。優しく体を離されて、彼が私の顔をのぞき込む。

「大丈夫ですか?」
「だ、いじょ、ぶです…」

カタカタと震える手を握りしめて返事をする。声が出てきてくれなくて、震えて掠れた声が言葉を紡ぐ。

「あまり強く握ると傷になりますよ」
「ぁ、…」
「怖かったですね。もう大丈夫ですよ」

握りしめた私の手をとって反対の手で私の頭を撫でる彼の優しさにポロポロと涙が零れる。怖かった。あのまま連れていかれてたら、と考えるだけでもぞっとする。一度溢れた涙は止まることを知らず、ポロポロと溢れてくる。慰めるように私の頭を撫でて、手を握ってくれる彼に甘えて私は涙を流し続けた。


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