アニメショップを出て、次に向かったのはショッピングモール。私が前から目をつけていたちょっと高めで手が出せなかったワンピースを至さんに買ってもらう。薄い紫で襟元のパールの飾りが綺麗なワンピースは少し特別なお出かけ用。
「ほんとによかったの?」
「ん?何が?」
「これ、結構高かったよ」
「子供は値段なんて気にしなくていいの」
「子供って…もう20だけど」
「俺からしたら子供だよ」
「大して変わらないくせに」
寮への帰り道。隣に座る至さんと会話をしながら外を眺める。右から左に流れる景色をぼんやりと目で追う。ショッピングモールでは1人になることが無かったからか、あの不可思議な現象は1度も起きなかった。怖い思いをしなくて済んだことに安心すればいいのか、この後も起こりかねないことに恐怖すればいいのか、分からない。
「うわっ!?」
「っ、!…なに?」
「いや…今、見た…?」
「な、何を?」
突然至さんの驚く声と共に急ブレーキが踏まれて前につんのめる。シートベルトが肩にくい込んでじわり、地味な痛みが広がる。視線を横に向ければ引きつった笑みを浮かべている至さんが目に入る。恐る恐るどうしたの、と尋ねれば少し震えた声が返ってくる。
「女、の人がさ…飛び出してきたんだよ、ね」
「…は、?それって、どういう…」
「でも、誰もいないんだよね」
「や、やめてよ!そういうの!」
「やっべー…初めてマジモン見たかも…うわ、鳥肌すごい」
いつも通りに振る舞おうとする至さんだけど、声が少し震えていて。姿は見てないけれど、まさかと思うと私の声も自然と震える。だって、そんな、ありえないでしょう。こんな、こんな偶然あるはずない。
「あー、普通にビビった。ごめんね、急ブレーキかけちゃって」
「いや、それは別にいいけど…」
「なまえ、顔色悪いよ」
「だ、大丈夫…」
「ねえ。もしかしてさ、今日1日そんな感じだったのってあの女の幽霊のせいだったりする?」
何事も無かったかのように車を走らせ出した至さんに震える声で返事をする。これじゃあ、大丈夫なんて言葉も全然説得力がない。至さんも私が大丈夫だとは思ってくれなかったようだった。
少しの沈黙の後、至さんの口から出た言葉に一瞬言葉に詰まった。だって、その通りだったから。至さんが見たっていう女の人と私がずっと聞いてる水の落ちる音が同じ人によって引き起こされたものかは確証が何も無いけれどその可能性は極めて高い。
寮に着いて車を停め、至さんが私の顔をのぞき込む。もう一度同じことを聞かれて、小さく頷けばやっぱり、と返ってくる。前に幽霊とか信じてないからと笑っていた至さんだったけど自分が本物を見てしまった以上、その存在を否定することができないのだろう。
「心スポとか行った?」
「私がそんなとこ行くわけないじゃん」
「だよね。じゃあ何だろ、なんか拾ったとか?」
「三角じゃあるまいし落ちてるもの拾ってきたりしないよ」
「ま、それもそうか。理由がわかんないんじゃどうにも出来ないよね」
「だから困ってるんじゃん…」
「誰かそういうのに詳しい人いないかな」
「都市伝説系なら万里とか一成とか…?」
「だね。聞いてみよっか」
今の状況と酷似した都市伝説があれば、万里や一成に聞けば解決方法がわかるかもしれない。仮に都市伝説じゃないなら他に原因があると考えるしかないけれど、聞いてみるだけならタダだ。車を降りて、後部座席から荷物を取って扉を閉める。
自分の背後の空気がいやに冷たくてぞわり、鳥肌が立つ。慌てて、至さんの元に駆け寄って歩き出す。さり気なく私の手から荷物を取って持ってくれる至さんにこんな状況だけど、まあ、少しキュンとした。ただ、どうしても後ろは振り返れなかった。
何となく、飛び出してきた女を見ていなくてよかったと、思ってしまった
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