おやすみマイレディ


「おーい、名前ちゃーん。風邪ひきますよー」
「ん、ぅ…すぅ…すぅ…」
「はあ…まじか…」


瀬呂は誰もいない夜の共有スペースで眠る名前を見てため息をついた。ソファに座ってこくりこくりと船をこぐ名前の前にしゃがみ込んで顔を覗き込めばすやすやと気持ちよさそうに眠っている。その髪からは水滴が滴り落ち、名前のパジャマの色を点々と変えていた。


「名前、起きろって」
「ん、…せろ…?」
「何で髪乾かさないで寝てんだよ。風邪引くぞ」
「んー…だい、じょーぶー…」


眠る名前の肩を揺らせば薄らと目が開いて、その瞳がぼんやりと瀬呂の姿を捉える。呆れたように笑う瀬呂を見てふにゃりと笑う名前に瀬呂は何が大丈夫なんだよ、と小さく笑った。


「ほら、髪乾かしてやるから」
「んー…」
「ったく…名前ー?起きてるかー?」
「おき、てるよぉ…」
「起きてねえな…」


瀬呂は名前を一度抱えてソファから降ろし、ソファに座った自分の足の間に名前を座らせる。ある程度の水分をタオルで吸い取り、はたと気づく。名前が髪を乾かさずにここで寝ているということは当然ドライヤーは部屋にある。そして、既に入浴を済ませた瀬呂のドライヤーも部屋にある。


「名前、今日俺の部屋にお泊まりするかー?」
「んー…するー…」
「よし。んじゃ、行くか」
「だっこ…」
「はいはい」


ほぼ目が閉じきっている名前に声をかければ、薄らと目を開けて瀬呂を見る。ふにゃりと笑って答える名前の体を横抱きにすれば、瀬呂の首に名前の腕が回る。


「せ、ろ…」
「ん?」
「すき…」
「ん、俺もすき」


もうほとんど眠ってしまっている名前が覚束無い口調で口を開く。再度ふにゃりと緩んだ頬に、瀬呂の頬も緩む。愛おしそうに名前を見た後、その額に口付ける。


「おやすみ、名前」


寝息を立てる名前を抱え直して、瀬呂は自室に向かうべく足を進めた。翌日、瀬呂のベッドで目覚めた名前が顔を真っ赤にして硬直するのはまた別のお話。


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