バカップルはお呼びでない


「名前」
「な、んぅ」

「「「!?!?」」」


唐突に目の前で起きた事に共有スペースにいた面々は言葉を失った。

ソファに座る名前を呼び、振り返ったその口に口付けた轟に峰田が声を上げた。


「お、おま…!轟ィ!なんて羨ましいことを!オイラと変われえええ!」
「?付き合ってんだから別にいいだろ」
「付き合ってるだと!!?!?お、おい…待てよ…いつの間に、お前リア充に…!」


突然のことに固まる名前を他所に共有スペースにいた面々が沸き立つ。何か変なことをしたかと首を傾げる轟に上鳴、峰田を筆頭に男子達が迫り、芦戸、葉隠を筆頭に女子はきゃあきゃあと黄色い声を上げている。


「つーか、名字固まってんぞ」
「ほんとや…名前ちゃん固まっとる…」
「名前、」
「っ、!?なっ…、な、なに…なにして…!、?」


一向に動く気配のない名前に切島が声を上げ、麗日が名前の前で手を振ってみるが反応がない。そんな名前に再度轟が口付ければ名前は我に返ったように口をはくはくと開けたり閉じたりして顔を真っ赤にする。


「な、なに…なにきゅうに…」
「?したかったからしたんだ」
「そ、そういう問題じゃないでしょ…!?」
「どういう問題だ?」

「でた、ぽやろきくん」


顔を真っ赤にして口を抑えながら異を唱える名前に轟がきょとんとした顔で首を傾げる。なぜ、名前が怒っているのかを全く理解していない様子の轟に瀬呂が笑いながら口を開く。


「ひ、ひといるとこで、しないでよ!」
「なんでだ?」
「恥ずかしいから、に決まってるでしょ!?」
「俺は恥ずかしくない」
「そんなこと、き、聞いてないから!」


轟を指差してわなわなと震える名前の人前でキスは恥ずかしいからやめろという訴えは届かない。轟に向けた指を掴まれ、するりと手を握られて引き寄せられる。


「だ、っからこういうのやめてってば!き、嫌いになるよ!」
「…!」

「あ、轟死んだ」
「顔面蒼白、ですわね…」


恥ずかしさが限界を超えたのか真っ赤な顔で叫んだ名前の言葉に今度は轟が固まる。その隙をついて轟の腕の中から逃げ出した名前が一番近くにいた麗日の影に隠れる。

ガンッ、と何かに頭を殴られたかのような様子でその場に立つ轟の表情に上鳴が笑い、八百万が戸惑いの声を上げる。言われたことを理解出来ていないのか、理解したくないのか轟が動く気配がない。


「…名前」
「ええええ!?ちょ、ちょっ、轟!?」
「と、とととど、轟さん!?」
「わあああ!?待て待て待て!落ち着けって!」
「ちょ、名前ちゃん!?轟くん泣いとるよ!?」
「な、泣きたいのはこっちだよばかあああ!」


漸く動いたかと思えば、ほろりと涙を零した轟に思わずその場にいた全員が声を上げた。麗日に名前を呼ばれた名前は何でだよと頭を抱えながらも内心少しだけ、泣いてる轟可愛いと思ってしまった自分を殴りたくなった。

ため息をついてゆっくりと轟の元へと足を向ければそれに気づいた上鳴達がスペースを空けてくれる。クラスメイトに囲まれるように自分の彼氏と向き合うなんてどういう状況だと逃げ出したくなる気持ちを抑えて、轟の頭に手を伸ばす。


「皆がいるとこで、その…き、すしたり、ぎゅってするのは、恥ずかしいから、やるなら、2人の時にして…そしたら、嫌いにならないから」
「ほんとか…?」
「うん。嫌いっていって、ごめんね」
「俺も、わるかった…」


名前が轟の髪を撫でて、たどたどしく言葉を紡げば俯いていた轟が恐る恐る顔を上げる。その場にいた大多数はよかったよかったと頬を緩めているが、そうは思っていない人物がいるようで峰田は再度声を荒らげた。


「なんだこのバカップル!ふざけんなよ!ふざけんなよ!」
「俺も同じこと思った…これなに…?つーか、これで泣くか?」
「…?泣いてる?誰がだ?」

「「「えっ」」」


峰田の言葉に上鳴も苦笑いしながら同意し、轟が泣いたことに対して呆れたように笑った。そんな上鳴の言葉にきょとんとした顔をする轟の口から出た言葉にその場にいた全員が固まった。一体、今日一日で何度固まればいいのだろうか。


「いや、誰って…」
「泣いとるのは轟くんやん…?」
「…?俺、泣いてたのか」

「「「気づいてなかったのかよ!!!」」」


自分が泣いてることに気づいてなかった轟が自分の頬に手を当てて、驚いたような声を上げる。思わず全員がツッコミを入れ、名前は一人頭を抱えた。その日みんなで見るはずだったテレビ番組の冒頭は勿論全員見逃した。


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