課題と逢瀬と秘密の恋

突然だが、私は相澤先生と付き合っている。勿論、相澤先生が猫カフェに行くのに付き合ってるだとか私のテスト勉強に付き合ってもらってるだとかそういうものではない。ちゃんと男女のお付き合いをしているのだ。馴れ初めは話し始めたら止まらなくなる気がするので割愛するとして。学校の生徒と先生が付き合っているというのは中々にスリリングだ。

「ねえ、せんせ。悪いことしてるみたいでドキドキするね」
「みたい、じゃなくて悪いことなんだよ」
「悪いことしてるのは私じゃなくて先生でしょ?」
「分かったから、もう黙ってろ」
「んっ」

こっそり抜け出した寮の部屋。やってきた教員寮の先生の部屋でキスをする。部屋からの出入りを見られても個性の暴発で先生に抹消してもらいに来たと言えば誤魔化せちゃうんだから私の個性も先生の個性も、都合のいい個性だ。夜のお相手は私が卒業してから、と先生が言うからキスで我慢する。きっと先生なら素敵な夜にしてくれるんだろうな、と思うと今からソワソワしてしまう。

そんな昨日の夜のことを思い出しながら、黒板の前に立って授業をする先生をぼうっと眺めているとパチリと目が合う。怒られる、と思って慌てて目を逸らして黒板の文字をノートに写す。チラリと先生を見れば小さくため息をついていた。あぁ、ほら、きっと怒られちゃう。付き合ってる可愛い彼女相手でも容赦ないんだから。まあ、そんな所が好きなんだけど。

「じゃあ、問1から10まで解け」
「…ぇ、」

怒られるだろうと身構えたけれど、先生は私を怒ることなく普通に授業を進めた。上鳴くんや芦戸ちゃんがぶうぶう文句を言いながら問題を解く中、歩き出した先生が真っ直ぐ向かってきたのは私の所で。

「名前、見すぎ」
「っ…!」
「名字、お前話聞いてなかっただろ」
「ぅえ、っ!?」
「はい。じゃあ、前出て答え書いてね」
「えええ!?」

小さな声で囁かれた言葉に、息を飲む。昨日の夜の先生の色っぽい顔を思い出してどうしたらいいか分からなくて、顔に熱が集まる。そんな私の頭を教科書で軽く叩いて、先生はにんまり口角を上げた。あ、まって嫌な予感がする。そう思った私は間違いじゃなかったらしく、怒られるよりもずっとひどい仕打ちを受けた。

「…分かりません」
「ぼーっとしてるからだ。昼休み職員室来いよ」
「うう…。はぁい…」
「相澤先生の授業でぼーっとするなんて勇者かよウケる」
「上鳴、お前も職員室に来たいのか」
「うぇい!?いやいや、そんな…滅相もないです!」

しゅんとする私の頭をもう一度教科書で軽く叩いて相澤先生が離れていく。叩かれた頭に手を当てて小さくため息をつくと上鳴くんが私を見てぷくく、と分かりやすく笑っていた。言い返してやろうかと口を開こうとすると鋭い目付きで相澤先生が上鳴くんを見る。途端に静かになって問題を解き始める上鳴くんに耳郎ちゃんがバカじゃないのと呟いたのが聞こえた。

「しつれーしまーす」
「来たか」

授業が終わり、昼休みになったのと同時に教室を出た。クラスメイトのドンマイ!と言う声と視線に思わず出てしまったため息はしょうがない。職員室の扉を開けてお決まりのセリフを言えば、その声が聞こえたらしい相澤先生が振り返る。他の先生達もいるから顔に出さないようにはしてるけれど、振り返る姿もかっこいい。

「じゃ、これね」
「…はい?」
「はい?じゃなくて課題な。授業中にぼーっとできる程お前の成績は優秀じゃないからな」
「えっ、ちょ、まって…多すぎません!?」

内心ではウキウキしながら先生の前に立つと、ちらりともこちらを見ずに先生が紙の束を差し出してきた。それを大人しく受け取って中身を見れば思わず投げ捨てたくなるほどの量の課題だった。キョトンとする私を見て大きくため息をついた相澤先生にいつもなら言わないが、ちょっとくらい可愛い彼女に優しくたっていいじゃん!と言いそうになってしまった。

「締切は明後日まで。ちゃんと提出するように」
「そんなあ…」
「ただし、どうしても分からなかったら夜いつもの場所に来い」
「っ!ほんとですか!」
「どうしても分からなかったら、な」
「はいっ!」

可愛い彼女に見つめられて幸せな思いをしたのに、その彼女に何たる仕打ちだと落ち込む私に相澤先生はすっと耳を寄せた。小さな声で言われた言葉とするりと撫でられた指先のせいで、ぶわりと一気に熱くなる。それと同時に込み上げてくる嬉しさに声が大きくなるけれど気にしてなんていられない。大量の課題をもらっているはずなのに全く落ち込んだ様子を見せないどころか、楽しそうにする私を見てクラスメイトは「とうとう壊れたか…」と思ったらしい。

ちなみに、どうしても分からなかった私が寮の部屋を抜け出して先生のところに行った時、素敵な出来事があったがどうかは秘密だ。



相澤先生と秘密の恋。素敵なリクエストありがとうございました!先生と生徒の秘密の恋!萌えますね!やっぱりそういう背徳的な感じだとか悪いことをしている感じがゾワゾワきますよね。優しさが故に手を出さない年上攻めも好きだけどダメと言いつつ本心ではそこまで嫌がってない受けにやめてって言われながらも手を出しちゃう年上攻めも好きです。はてさて、一体なんの話ですかねえ。

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