利用されて、利用して
「名前ちゃん!今日の合コン一緒に行かない?」
「ごめんね、今日はちょっと用事があって…」
「そっか!こっちこそごめんね!じゃあまた今度!」
「うん、ありがとう。また誘ってくれたら嬉しい」
授業も終わり、後は帰るだけ。そんな時にかけられた声に咄嗟に表情を作って断る。まあ用事なんてないんだけど。大して荷物も入っていない鞄を持って教室を出て正門とは逆の方向に歩き出す。最近正門から帰ろうとすると「あれ、名字さんじゃん偶然だね!今帰り?」といった具合で話しかけられることが増えたからだ。時間をずらしてもそれは変わらないし、人数も一人二人じゃないから逃げるのにも時間がかかる。
「はあ…」
「名前、」
「古橋!」
「何かあったのか?」
「わかる?」
「ああ。原のしょうもない下ネタに付き合わされてる時と似たような顔してるぞ」
「ちょっと」
裏門への道のりを歩きながら自然とため息が零れた。そんな私のため息を拾って声をかけてきたのは聞き覚えしかない馴染みのある声。パッと振り返れば相変わらずの死んだ目をした古橋が立っていた。ふ、と肩の力が抜けて自分の表情が少し緩むのが分かった。並んで一緒に歩き始めた古橋が私の顔を見て小さく笑う。例えが分かりやすすぎて思わず声を上げて笑ってしまう。勘弁してよ、それかなり酷い顔じゃん。
「いや、実はさ…」
ひとしきり笑って浮かんだ涙を指先で拭う。別に何とかして欲しかったわけじゃないけれど、自然と話してしまった最近の厄介な出来事。それまでずっと静かに聞いていた古橋が私が話終わるのとほぽ同時に立ち止まった。
「古橋?」
「まだいるのか?」
「はい?誰が?」
「その男達」
「ええ…分かんないけど、いるんじゃない?」
「そうか」
「え、いや、ちょ、古橋!?」
主語のない言葉に何が言いたいのか分からず首を傾げる私の手を引いて古橋が歩き始める。その向かう先は恐らく、正門。焦ったように声を荒らげる私を気にも留めず黙々と歩く古橋に何故か少し面白くなってしまって小さく笑えば古橋が振り返る。
「彼氏のフリでもしてくれるの?」
「牽制だ」
「何それ。別にいいのに」
「お前が困るだろう」
「じゃあ、上手くいったらお礼に奢ってあげる」
「ああ。楽しみにしておく」
古橋の隣に立って顔を覗き込めば真剣な顔で返事をされる。誰かのために動くような人じゃなかったのにどうしたの。繋がれた手を話すことなく正門に向けて歩いていれば向かいから歩いてくる数人の男の姿。見覚えのあるその顔と一瞬だけ視線が交わる。ふ、と面白いことを思いついて古橋を見上げてにんまりと笑えば古橋は一瞬だけ考えるような顔をしてすぐにいつもの表情に戻った。
「ねえ、康次郎。今日この後暇でしょ?」
「ああ」
「うち来ない?」
「いいのか?」
「もちろん!」
向こうに聞こえるように意識して声を弾ませる。こっちを見て驚いた顔をする男たちに思わず声を上げて笑いたくなるのを堪えて古橋の腕に抱きつく。あの一瞬で私が何をしたいのかちゃんと分かってくれるのはやっぱりコイツらだけだな、と思うと自然と口角が上がる。すれ違った後も少しの間腕に抱きついたまま歩き、曲がり角を曲がってからくるりと後ろを振り返る。
「はい、解決〜!」
「相変わらずだな」
「ふふ、あったりまえでしょ」
「それにしても…」
「なに?」
「成長してないな」
「ねえ、どこ見てそれ言ってんの」
「胸だが?」
「胸だが?じゃねえよ。一哉のしょうもない下ネタレベルで笑えない」
「それはやばいな」
「やばいのはお前だよ」
私の口から彼氏がいると言ったわけではないが、さっきのを見て私と古橋が付き合っていると勝手に勘違いしてくれたのはかなり理想の展開だった。少なからず女子から人気がある古橋と私が付き合っているという噂が流れれば私に近づくバカな奴らは減る。嬉しさに頬を緩める私をじっと見て古橋がしょうもないセリフを吐く。何でコイツらは全員一言余計なんだろうか。黙ってればそこそこ顔はいいのに口を開いたらこれだ。まあそれは私にも言えたことなんだけど。
「やっぱり撤回。今日は古橋の奢りね」
「結局飲みには行くのか」
「当たり前でしょ。ほら、行くよ」
大学生の古橋と赤い月夢主でした。素敵なリクエストありがとうございます!高校生も大学生も話し方だとか考え方っていうのは案外変わらないもので。変化があるとすれば20際になってお酒が飲めるようになるとかならないとかそういうところだけかなあ、と。思いのほか大学生っぽくならなくてちょっと凹んだんですけど個人的には面白かったのでは…?と思ってます(笑)。納得いかなかったら申し訳ないです…