瞬きと共に焼きつける
先輩達が引退して私は二年になった。入ってきた一年はかなり優秀で、もちろん私の同期よりも優秀だった。が、如何せん監督が実力よりも年齢を重視するタイプだったが為に優秀な一年は試合に出ることはなかった。が、唯一花宮だけは試合に出ていた。確かに無冠の五将の一人ということもあって上手かった。上手い、というのは勿論プレーだけに限った話ではない。
そして、また春がやってきて私は三年になった。相も変わらずバスケ部でマネージャーをしているが、大きく変わったことがある。かつてのポンコツ監督がバスケ部監督を辞め、花宮が監督になったのだ。監督が花宮に変わってからバスケ部は一気に実力主義に変わり、強豪校と呼ばれるまでに上り詰めた。そして、それと同時に霧崎と試合をすると怪我人が出るという噂も流れ始めた。
「はい、10分休憩」
「ういーす」
「名前先輩疲れたあ」
「暑い重い離れろ」
「いって」
いつもの放課後練習。タイムキーパーである私の言葉にダルそうに返事をする部員達。猫撫で声で私に背後から凭れかかってくる原の足を踏みつけて引き剥がせば大して痛くもないくせに足をさすってこっちを見る原の口元が緩んでいるのが分かって思わずひくりと口角が引き攣った。
「名前さん」
「ああ、さっきのスコア?はい」
「ありがとうございます」
「良くもなく悪くもなく、かな。あえて言うならザキが先週よりタイム落ちてるくらい」
「げっ、俺かよ」
「おいザキ」
「まあ落ちたって言っても0.2だけど」
「それ落ちたって言うんすか…」
汗をタオルで拭いながら歩いてくる花宮にスコアブックを渡せば受け取って眺め始める。体育館の床に寝転がってあーあー言っているザキを指さしながらスコアブックを見ている花宮に声をかけると寝転がっていたザキが飛び起きた。そんなザキに花宮があまりにもキツい視線を向けるものだから冗談だと笑えばザキがホッとしたのか呆れたのか肩を落とした。
ケラケラと笑う私に冷たい視線を向けてくる花宮に「何?」と聞けば「いえ、なんでも」と返ってくる。絶対なんでもない顔してなかったぞ、と思いながらモップをかけようと体の向きを変えて思わず足を止めてしまった。あの男は何度言えばわかるんだ。床に落ちた汗は怪我の元になる。だから休憩の度にモップがけもしてるし、部員にはタオルで汗を拭くように言っているのに。
「瀬戸、すぐ寝ないで汗拭いて」
「んー」
「んー、じゃなくて」
「じゃあ名前さん拭いてよ」
「じゃあの意味が分かんないんだけど」
「早く」
「はぁ…」
「え、ちょ、んぶ。ねえ、乱暴すぎない?」
タオル片手に瀬戸の元に近づいてタオルを投げつける。顔に乗ったタオルを取りながら私を見上げる瀬戸の図々しさやたるや。コイツ私のことほんとに先輩だと思ってねえだろ。いらだちを抑えることなく思いきりタオルで頭を拭いてやれば戸惑ったような声が下から聞こえてくる。ぐしゃぐしゃになった髪の毛を手で撫で付けながら私を恨めしそうに見る瀬戸を鼻で笑ってモップを取りに行く。
「名前さん、変わります」
「え、いいよ。ちゃんと休んでな」
「休みました」
「もっと休んで」
「でも…」
「でもも何も無いから。ほら、さっさと休め」
コート全体をモップがけしていれば、いつものように近づいてくる影。またか、とため息をついて足を止める。振り返れば私に向かって手を差し出す古橋の姿があり、思わず大きくため息をついてしまう。何度言っても私の仕事を手伝おうとする古橋の手をぴしりと叩いてモップがけを再開すれば「古橋マジで懲りないよね」とゲラゲラ笑う原の声が聞こえてくる。
休憩だと言ってるのに休憩しないで私に絡みに来るお前も大して変わらねぇよ、と思いながらモップをかける。最初こそクソ生意気な一年が入ってきたなと思っていたけれど、今となってはウチの大事な戦力で私の可愛い後輩だ。生意気なところは今でも変わらないけれど、それでも決して嫌いではないしむしろ好いている。プレースタイルに文句を言ってくる輩も多くいるし、前よりも確実に他校の人に絡まれることも増えた。
「名前せーんぱい!今日の帰り暇?皆でラーメン食べに行こ」
「ザキのタイムが上がったらね」
「俺!?」
「よし、頑張れザキ」
「せめてもっと感情込めろよ」
「はい、休憩終わり。次行くよ」
それでも、私が一年だった時よりも、二年だった時よりも、遥かに退屈していない。むしろ楽しいと、心地良いと思っている私も中々性格が悪いのかもしれない。練習に打ち込む彼らの姿を、試合に出る彼らの姿を、目に焼きつけるようにほんの一瞬目を閉じた。
リクエストありがとうございました!もし赤い月夢主が三年だったら…と考えたら何だかウキウキしました。きっと今吉さんとは腹の探り合いみたいな会話をしてるんでしょうね…。花宮くんは意外と三年マネちゃんを苦手だと思っていたりいなかったり…?三年生だと考えたらかなり想像の幅が広がって楽しかったです。ありがとうございました!