約束された一番
体育祭で行われる部活動ごとの対抗リレーは毎年大いに賑わう、らしい。言われてみれば去年もバカみたいにうるさかったのを覚えている。今年も今年とて、それは例外ではない。先程、女子の部が終わり次は全校の女子生徒が待ちわびていた部活動対抗リレー男子の部だ。かっこいいだの頑張れだのと、きゃあきゃあ飛び交う黄色い歓声に思わず眉間にシワが寄る。びっくりする程にうるさい。普段男子と話す時の可愛こぶった小さいあの声はなんだ。飾りか。
「ねえ!名字さんはやっぱりバスケ部の応援するの?」
「へ?あ、あぁ、うん。そのつもり」
「だよね!私もバスケ部の応援するんだ!一緒に応援しよ!」
「そうなんだ。じゃあ、ご一緒させてもらおうかな」
少し離れた場所でぼんやりとグラウンドを眺めていると後ろからクラスメイトに声をかけられる。さすがにバスケ部に所属している以上は応援しないですなんて言えるはずもなく腕を引かれて応援席へと連れていかれる。熱気と女子生徒達の香水の匂いで目眩がする。ああ、もう、最悪だ。一刻も早くさっきの場所に戻りたい。そう思いながらグラウンドに目を向ければ第一走者の瀬戸がこちらをちらりと見た。
口パクで頑張れ、と言えばふっと鼻で笑って返してくる瀬戸に思わず殺意が湧く。応援してやってんだろ、と思いながらジト目を向け続けていると再びこっちを見た瀬戸がまた鼻で笑う。もう応援なんかしてやるかとそっぽを向く。どうやら第一走者は瀬戸で古橋、原、ザキ、花宮、と続くらしい。如何せんウチのメンバーは全員揃って運動神経抜群なので負けるとは1ミリも思っていない。
「どこが優勝するかな?やっぱり陸上部かなあ?」
「えー?サッカー部でしょ!絶対!」
「野球部もあるかもしんないじゃん!」
近くで繰り広げられるそんな会話に「バスケ部だよ」と答えそうになったのを飲み込んでグラウンドに目を向ける。スタートラインの横に立った教員がスタートの音を鳴らす。パァンと軽い音が響いて、その直後全員が走り出す。うん、やっぱり早い。陸上部と同等とは言わないがそこそこいい順位で古橋に順番が回る。陸上部の後ろにピッタリとくっついて二位をキープしたまま走る古橋の余裕そうな顔に、ひくりと頬が引き攣った。嘘でもいいからもう少し苦しそうな顔しなさいよ。けろりとした顔で原にバトンを渡した古橋がちららとこちらに視線を向ける。
ばーか、と口パクで伝えれば古橋はキョトンとした顔をしてからふっと小さく笑う。腕でこめかみを伝う汗を拭って待機場所にいた瀬戸の隣に座った古橋を横目に原を見て思わず頭を抱えそうになった。バスケ部で一番足が速いと言っても過言ではない原を三番目にしたのは正解だったのか、それとも陸上部のメンバー配置が間違いだったのか。どちらにしても原が陸上部を抜いて一位になっていたのは良い。が、問題なのは煽るように原が速度を落としたり上げたりしている事だ。
「あのバカ…」
「なんか原くん走り方変じゃない?」
「足捻ったとかかなあ?」
完全に挑発しているそれにため息をついて頭を抱えるけれど、周りの馬鹿な女どもは原の調子が悪いだけだと思っているらしく大丈夫かな、と心配そうな視線を向けている。おいおい、どこまでバカなんだコイツら。余裕そうな顔でザキにバトンを渡した原がこちらを見てにいっと口角を上げるものだから嫌な予感がして眉間にシワを寄せる。私の嫌な予感通りにこちらにピースを向けてきた原に周りの女子達から黄色い声が上がる。はいはい、どうでもいいからさっさと待機場所に戻りなさい、と言わんばかりに手で追い払うようにすればケラケラと笑った原が待機場所へと足を向ける。
グラウンドでは原の次に足が速いであろうザキが一位をキープどころか、他の部活といくらか距離に余裕を持たせて走っていた。ああ、これはもう一位で確定だな、なんて思いながらぼんやりとレースを眺める。思った通り、一位で渡ったバトンは当然のように花宮によってゴールまで運ばれた。二位との距離がそこそこあったせいか、花宮は全力では走っていなかったようだった。全く疲れてません、と言わんばかりの爽やかな笑顔を浮かべる花宮はやっぱりいい性格をしている。本気を出してない相手に負けることがスポーツマンにとってどれだけ屈辱的なのかをわかっていない訳じゃあるまいし。とは言っても花宮の外面に騙されている生徒達は花宮が本気で走っていると思い込んでいるのだからお笑い草だ。
「おつかれ」
「見た見た?俺の走り」
「見た。最悪」
「だっておっせーんだもん」
「だからって態と抜かせて追い越すなんて趣味悪すぎでしょ」
「結構楽しかったよん」
戻ってきた花宮達に声をかければ原がニヤニヤと笑いながら近付いてきた。至極楽しそうな様子の原にあっそう、とだけ返してぬるくなったペットボトルの水を飲む。予想よりもずっと生ぬるいそれに思わず眉間にシワを寄せればザキが苦笑い気味に口を開く。
「名前も行くか?」
「どこに?」
「原があちーから水被りに行くんだと。ぬるい水飲むよかいんじゃね?」
「…行く」
体育館裏の古い水道は新しく出来た水道のせいで普段から人がいない。その割には水が冷たくてバスケ部は専らそこしか使ってなかった。まあ所謂、穴場スポットってやつだ。少しくらい抜け出してもバレないだろう、と先を歩いていた原達の方へ足を向けた。
そんな訳で、リク頂いていた部活対抗リレーを見守る赤い月夢主でした〜!まあ、皆さんが予想する通りに全力で応援なんてことはしないので、ただぼんやり見てるだけって感じでした。それでも楽しんではいるんでしょうね、きっと。何だかんだで負けず嫌いな子達ですから。やるからには勝ちますって感じです。何だかんだで青春してて、いいなあって思っちゃいますね。素敵なリクエストありがとうございました!