素敵なお遊びいたしましょう?

やばい。そう思って目を瞑ったのとほぼ同時にぐらりと体が傾いてガシャンと物凄い音を立てて自分の体が転がる。じんじんと頬が痛み、口の中に血の味が広がる。ああ、もう。これだから頭の頭の悪い奴らは嫌いなんだ。殴るなら見えないところじゃなきゃ意味無いでしょ。

「んだよ、その目」
「…何のことですか?」
「恨むなら花宮を恨め、よっ…!」

痛い事は痛いけど、だからと言って泣いて許しを乞うとかそんなことはしない。むしろ、よくもまあこんな下らないことをするなとしか思ってない。そんな私の考えが顔に出ていたのか目の前の男が顔を真っ赤にして憤る。腕のギブスは確かウチとの公式戦で負った怪我のはず。要は逆恨みという訳だ。霧崎でマネージャーをやってるとこういう事はまあまあ普通に起きる。

男が座り込む私を真っ赤な顔で見下ろして足を後ろに引く。あー、これは蹴られるやつかなあ…どこ蹴るつもりなんだろ。もう痛いのは嫌なんだけどなあ。なんて呑気に考えながら目を閉じる。けれど、襲ってくるはずの痛みはいつまで経っても襲ってこない。それどころか男達の慌てたような声が聞こえてくる。それだけで思わず緩みそうになる頬を抑えてゆるりと目を開けると見慣れた深緑のジャージが目に入り、やっぱり我慢出来ずに口角が上がる。

「ヒーローは遅れて参上って?」
「俺らがヒーローとかないわあ」
「自分で言っちゃうのね」
「つーかマジなにしてんの名前」
「えっ何で私が怒られてるの」
「何易々と殴らせてんのって言ってんの」
「だって証拠になるじゃん…」
「お前はそういう奴だったね」
「…えへ?」
「可愛くないっつーの」
「いた、いたいいたい!」

一度殴られているにも関わらず、涙一つ見せずにヘラヘラ笑う私を見て原の口が一文字に結ばれる。アンタらのせいで殴られただろ、と本来なら私が起こるべきはずの状況で何故か私が怒られる。殴られた頬を抓られてビリビリと鋭い痛みが襲って、涙が滲む。思い切りは抓っていないんだろうけど如何せん痛すぎる。

「言いたいことがあるのなら俺達に直接言うべきだったな」
「ふはっ。コイツに手を出したのが一番の間違いだぜ?そんな事も気づけねえのかよ」

古橋が私の肩にジャージをかけて、私を立たせながら冷めた目で男達を見る。その隣で花宮が悪そうな顔でニヤリと笑えば男達は言葉の意味が理解出来ていないようで声を荒らげる。

「どういう意味だよ!」
「え〜?こういう意味だけど?」

そう言ってポケットから取り出したスマホの画面を操作する。次の瞬間、スマホから流れてきたのは私がここに呼び出されてから花宮達が入ってくるまでの音声。男達の怒鳴り声も私が殴られる音も全部入っている。その音声を聞いた男達の顔が途端に青ざめていく。

「あは。気づいてなかった?ここに来た時からずっーと録ってたの。殴られたのも勿論、わざとだよ?女の子だしちょっとくらい手加減してくれるかなって思ったのに思いっきり殴ってくれちゃってさあ。結構痛いんだよ?」

きゃはっ、とわざとらしく声を上げて笑った私に男達がわなわなと震え始める。同じ事をしただけなのにねぇ。私達が君達にした事と同じように"意図的に"怪我をさせただけなのにねぇ。同じ事をしたのに私達は今まで通りバスケができる。でも君は、君達はもう学校の名前を背負ってバスケはできない。ああ、可哀想に。

「ふふ。蜘蛛の巣は試合中じゃなくても張り巡らされてるんだよ」
「ふはっ。ゲームオーバー、だなぁ?××高校の4番くん?」
「な、んで知って…!?」
「知らないわけないでしょ。試合相手ごとに戦い方を変えているんだから。アンタ達の試合映像なら飽きるほど見たしね」

私が口元を両手で覆って笑えば、花宮も心底愉しそうに笑う。横からザキの「うっわ、悪い顔」という声の後に「こういう時だけ生き生きしてるんだもんねー」と原の声が聞こえる。そこ2人うるさいぞ。高校も背番号もバレていることに驚いた顔をする男に瀬戸が呆れたような声で告げれば今度こそ男達の目から光が消えた。あーあ、終わっちゃった。

「名前、これを使え」
「つ、っめた…!?」
「別に顔じゃなくても良かったんじゃねーの?」
「馬鹿だなあ。女の子が顔殴られるなんてよっぽどでしょ?私はそのよっぽどが欲しかったの」
「あー…お前はそういう女だよな。知ってた」
「ザキは計算高い女とか苦手そう。てか、掌で転がされてそう」
「ふざけんな。転がされねえわ」

真っ青な顔で立ち竦む男達を置いて倉庫を出る。よくもまあ、こんな穴場を見つけたものだ。じわりじわりと痛む頬に眉間にシワを寄せると頬に冷たい何かが当てられる。どうやら私が殴られていることは想定済みだったようで予め保冷剤を持ってきていたらしい。ありがたく受け取って頬に当てるとすうっと熱が引いていく感覚が心地良い。

「さーて。これを提出してさっさと帰りますかあ」
「提出したらさっさと帰れないんじゃね?」
「そこは私と花宮の演技力次第でしょ。ね?ま〜こちゃんっ」
「はっ、誰に向かって言ってんだ」
「わぁ、怖ぁい」

大会終了後の出来事であった為、会場にはほとんど誰も残っていない。残っているのは大会運営側だけだ。そうと決まれば本部に提出して、涙を浮かべて震える私の肩を抱いた花宮が「今日はこのくらいにしておいて貰えませんか。彼女を休ませてあげたいので…」と申し訳なさそうに言えば帰らせてもらえるだろう。さすがに泣いてる女の子を拘束して事情聴取なんてことはしない、というか出来ないだろう。

「痛むか?」
「そりゃね」
「…そうか」
「別にすぐ治るよ。平気」
「平気なわけないでしょ」
「い、ったい!」
「当たり前だろ。殴られてんだから」
「うー…痛い…」

ただ、私がこうしてわざと殴られに行ったりする事を良しと思わない奴が何人かいるみたいで。特に古橋と原はあんまりよく思ってないみたいだった。ザキは意外にも瀬戸と同じで私がいいならまあいいよスタンスだ。勿論花宮はもっとやれって感じだけどね。とりあえず、明日学校が休みで本当によかった。



待ってこの話自分で書いといて何だけど最高に好き。好きです。最高に素敵なリクエストありがとうございます〜!いい感じにゲスくていい感じに性格の悪さというか、狂った感じが出てて非常に性癖に刺さりました。もうほんとにありがとうございます。

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