かわいい

「湊川ちゃんばいばーい!」
「湊川ちゃん!また明日ー!」
「お、湊川。気をつけて帰れよー」
「湊川さん、さようなら」

教室を出ようとする私に同じクラスの人達が手を振る。それにひらりと手を振って応えて教室を出る。生徒用玄関へと向かう途中もひっきりなしにかけられる声に笑顔で返し、足早に校門を出る。歩いて、歩いて、歩いて。見慣れた扉をトリガーで開け、中に入る。その後も歩き続けて本部へと入り、自身の部屋を目指した。

「梓ちゃん?」

背後からかけられた聞き慣れた声に振り返るればそこに立っていたのは我らがボーダー本部長の元でオペレーターを務める響子さん。思わず飛びついた私を響子さんは優しく抱きとめてクスクス笑いながら頭を撫でた。

「響子さああああん!」
「おかえりなさい。今日は早いのね」
「捕まる前に逃げてきた」
「捕まる?誰に?」
「先生とか、クラスの人とか」
「いつも捕まってるの?」
「雑用頼まれたり、買い物に誘われたり…」

響子さんの腰に腕を回してぎゅうぎゅうと抱きつきながら会話をする。響子さんマイナスイオン出てる?非番の時でも極力本部内にいる私が時々帰りが遅い日があることを知っている響子さんが首を傾げる。学校の人には私がボーダー隊員であることを公表していない為、防衛任務があるからと言って逃げてくることが出来ない。眉間に皺を寄せながら答えると響子さんは再度クスクスと笑い始めた。

「雑用は梓ちゃんの仕事が早いからお願いされちゃうのよ。それに買い物くらい行ってもいいじゃない」
「やだ。そんなに仲良い訳でもない人達と遊んでお金使いたくない」
「確かにそれもわかるけど…」
「だったら可愛いうちの後輩ちゃん達に奢りたい!」
「ほんと後輩大好きね」
「響子さんも好きだよ?」
「ふふ、私も梓ちゃんが大好きよ」

仕事ができると褒められたことは素直に受け取るが、仲良くもない人と買い物に行くことに関してはどう頑張っても納得がいかない。断固として拒否の姿勢を貫けば響子さんは呆れたように笑う。そんな響子さんを見上げて笑って見せれば響子さんは頬を赤く染めて嬉しそうに微笑んだ。真正面からこういうことを言われると照れてしまう響子さんが可愛くていつも意地悪したくなってしまうのはしょうがないと思う。

「わーい!でも私より忍田さんの方が好きでしょ?」
「ちょ、ちょっと!梓ちゃん!」
「あ、顔真っ赤」
「梓ちゃん!」
「あはは!ごめんって!」

更に続けて言えば先程とは比べ物にならないくらい響子さんの顔が赤くなる。本人は隠してるつもりだろうけど正直なところバレバレというかなんというか。まあ言ってしまえばわかりやすいのだ。焦ってキョロキョロと周りを見たり、私に静かにしろジェスチャーをしてくる響子さんは普段の冷静さはどこへやら、といった様子だ。まあ子のリアクション見たさにからかっているわけなのだが。

「じゃあ、また後でね!響子さん!」
「またね、梓ちゃん」
「またねー!…あ、響子さんにだったら忍田さんの事あげてもいいよ!」
「〜っ!梓ちゃん!!!」

頬を赤くして怒る響子さんにごめんごめんと謝って響子さんから離れる。何かの書類を持っていた響子さんがどこかに行こうとしてたことは分かっていたのであまり長く引き留めるのは申し訳ない。去り際にとどめと言わんばかりにからかって響子さんに背を向ければ、背後から響子さんの咎める声が聞こえた。

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