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けたたましく鳴ったアラームを止めて布団の中で小さく丸まる。朝はどう頑張っても苦手で中々起きられない。少しすると先程と同じようにアラームが鳴って、それをすぐさま止める。それを数回繰り返してようやく体を起こした時には、最初にアラームが鳴ってから30分が経っていた。ベッドの上で少しの間ぼうっとして、ベッドから降りる。

「休みなのにアラームかけるとか、バカじゃん…ふぁ…ねむ…」

自分でかけたアラームに悪態をつきながらリビングに向かう扉を開ける。コーヒーでも飲んでちょっとゆっくりしよう。寝て過ごすだけの休日になるよりマシだ。そんなことを思いながらリビングへと向かう扉を開けて、文字通りに固まった。それはもうピタリと。私だけじゃなくて、この部屋の中の時間そのものが止まったのかと思うほどにピタリと止まった。思わず口から零れた間抜けな「は?」という声は思いの外部屋に響いた。

「えっと…誰、ですか?」
「ああ!こんな綺麗なレディに会えるなんて俺はなんて幸せ者なんだ!俺の名前はサンジ、麗しい貴方のお名前を教えて頂いても?」
「名前、です…苗字、名前…」
「名前ちゃん!なんて素敵な名前なんだ!麗しい君にぴったりだ!」

リビングの真ん中に立っていた男の人は友達でもなければ知り合いでもない。真っ黒なスーツがよく映える綺麗な金色の髪と白い肌。すらりと伸びた手足と高い身長。整った顔立ちの彼はくるくると器用に回りながら私の前に跪いた。手の甲に落とされたキスに思わず肩が跳ねるけれど、続けられた歯の浮くようなセリフと下から向けられた優しい目に戸惑いが隠せない。知らない人が部屋にいる時点でこんなに落ち着いているのもおかしな話なのに彼の立ち振る舞いは不審者には見えなかった。

「えっと、あの、サンジ?さん?」
「ん?」
「その…何で、ここに…?」
「ああ…!そのこと、なんだけど…」

私が名前を呼ぶと優しく目が細められて、その顔の良さに思わず吃る。日本人離れした綺麗な外人顔はどうにも見慣れていなくてドキドキしてしまう。何とか口から絞り出した私の質問に、彼の顔がふっと曇って戸惑ったような声が彼の口から零れる。ぽつりぽつりと彼の口から語られたのはどうにも信じ難いもので。でも、彼の真剣な目は嘘を言っているようには思えなくて。「こんな話信じてくれないよな」なんて言って自嘲気味に笑った彼に考えるよりも先に口が動いた。

「目見たら、分かるよ」
「え?」
「サンジさんが、嘘ついてないって。そりゃ、信じられない話だけど、それが嘘だったらサンジさんがここにいる理由に説明がつかないもん。だから、信じる」
「名前ちゃん…」

海賊として海を旅してたら上陸した島で巻き込まれた嵐のせいで別の世界に来てしまった、なんて。信じられない話だけど、それが真実でもない限り彼がここにいる理由に説明がつかない。不審者の可能性も否定は出来ないけど、正直顔が好みすぎて疑う気にならない。まあ、こんなイケメンに殺されるなら別にいい。そんなアホな事を私が考えているなんて思ってないサンジさんは嬉しそうに頬を緩ませる。ほんの少しだけ痛んだ良心には見ないフリをして笑い返した。



(とりあえず、靴は脱いでもらってもいいですか?)


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