ドエムではありません

出だしは良い。
むしろ、俺というブランクを抱えたイレギュラーが入っているのにも関わらず、好調過ぎる。

青峰のストバスの動きを取り入れたスタイルも、さらに成長した紫原も、ウィンターカップで戻った、前の雰囲気の赤司も、コートすべてがシュート範囲となった緑間も、圧巻過ぎた。
練習を見る限りでは、黄瀬も黒子も(黒子は特にシュートが出来るようになってた)成長しているし、黒子と組んで赤司まで負かしたという火神も化け物レベルだ。
赤司の奴、よくこんな連中の中に俺を呼ぼうと思ったよな…。

でも、だけど、ジャバウォックだって並大抵ではない。

前回の試合で見せたストバスのテクニックはもちろんだが、基本も当然しっかり出来ているから、それを組み合わされてしまえば体力がもたない。
現に俺以外の現役も、過去の記憶では有り得ないほどの汗を第1Qからかかされている。

あ、俺?
俺なんか当然、今にも倒れそうだっての。



「だーっ、もう!俺倒れそうなんだけど!?」

「叫ぶ元気があるなら飛べるだろう?早くマークにつけ。」

「赤司厳しい!」

「今のはしらちんの自業自得っしょ〜…。」

「ユウおまえ、頭良いのに馬鹿だよな。」

「白布は昔から、赤司の怒りを買うのだけは上手いのだよ。」

「もっと優しくして!」



まさしく今にも倒れそうなのに、赤司から放たれるのは厳しいお言葉。
その通りではあるんだけど、励ましてあげようとは思わないのかねこの人…。
俺だってしんどいときは優しくされてぇのよ…。

とは言え、限界が近いのは事実。
正直、ブランクで削られた体力はあの地獄のメニューで消耗したまま完全には復活しきれていないし、元々常にコートに立っていたわけではないから体力はあいつら程では無い。

でも、そんな中でも感じる、ジャバウォックの奴らに対する違和感。
あいつらの体格で、筋力で、今やっているあれが全力なはずがない。
それなら本気でないうちに点差を広げたいとは思うけど、全力ではなくとも基礎は当然、他の実力も伴うわけだからスムーズにはいかない。
それ故に、全員の体力が削られる。



「だから俺にばっか点決めろって言わんばかりのパス回すのやめて!?」

『ちょこちょこしてんじゃねえぞサルがぁ!』

「うっせぇゴリラ!俺ァ英語くらい解るんじゃ!日本来たなら日本語で話せ!青ゴリラに伝わんねえだろ!」

「ユウテメェぶっ潰すぞ!」



赤司は赤司で、当然俺をフルでコートに立たせるつもりはないらしい。
まあ、ここには中学時代のように黄瀬と黒子も居るし、注目の火神もいるのだ。
その判断は当然のことだろう。

でもだからと言って、俺のマークが逸れた一瞬をついてパスを回すのはやめてほしい。
赤司のパス回しは、昔から俺に対してだけドエスで泣きたくなる。
今はもう、帝光時代のあのクソみたいなノルマもないのに…。

俺に付いていたマークが逸れたとは言っても、さすがはアメリカで活躍するジャバウォック、とでも言っておくか。
一瞬にして俺にマークが戻り、一気に2人から囲まれる。

見える範囲でパスが回せそうな人は居ないし、そもそもあんまり俺、パス上手くないし…。
寄越せと誰も声を上げないってことは、そういうことなんだろ。



「俺だってやる時ァやるんだよ!クソッ!陸上選手にいそうなスタイルしやがって!のくせして遅せぇんだわ!」



ヘアバンドを巻いた奴を、赤司ほど上手く転ばせたりはしないが、アンクルブレイクでバランスを崩させ躱し、ゴールに向かう。
そして俺に追い付いた全身色黒のブロックを、お得意のダブルクラッチで避け、点を入れさせてもらった。



「俺ァもう疲れてんだよ!邪魔すんじゃねえ!クソがッ!」



早く第1Q終わってくれねえかな。
もしくは選手交代してくれ…。



「し、白布くんって、結構口悪いのね…。」

「はい。白布くんは試合中疲れると、人格が変わります。」

「そして疲れがピークに来ると、ユウくんは早くコートから下がりたい一心で集中力が増して、シュート率が一気に高まるんですよ。」

「だから赤司っちも、白布っちを疲れさせるためと一気に身体作りをさせるためにハードメニューを渡して、今もパスを回しまくってるんスよ。」

「下がりたい一心って…それって選手としてどうなのよ…。」

「キセキの世代っつぅのは、どいつもこいつも曲者揃いってわけだな…。」



疲れた苛立ちと、早く下げてくれと言わんばかりに奮闘していた俺は、ベンチでのそんなやり取りなんて欠片も聞いていなかった。



***
補足
ラストのベンチ組の会話
リコ→黒子→桃井→黄瀬→リコ→景虎