3年生が卒業して、2年に上がり。
相も変わらず日向に誘われるがままバレー部(と言うよりもヒトカ)の手伝いをしていた頃。
夏休みも変わらず練習をしていたバレー部。
休憩時間に武田先生が「アメリカから注目のストリートバスケット選手が来日していて、日本の大学生と親善試合をしているみたいですよ!」と言って、俺を職員室へ連行したのが今回の事の始まりだ。
職員室へは俺だけ行くはずが、日向や影山はおろか、烏養監督含む全員が引っ付いてきた。
日向曰く「おまえの昔の仲間見てみてぇもん!」らしいが、残念ながら同期が出ていない時点で仲間は誰もいない。
それどころか、知人すら居ないと思う。
まあ、もし帝光出身の誰かが居たら、日向の言う仲間とやらになるんだけど。
「俺、バスケ全然わかんねーけど、やっぱでっけー奴多いんだな!」
「まあ、そりゃね。俺よりデカイ奴とかも普通にいるし。」
「マジかよ!すっげー!」
「ほらほら、試合、始まりますよ。」
職員室でテレビを囲む、なんて、夏休みの…それも生徒の少ない、補習外のシーズンだからこそだろう。
テレビに映る選手は、やはり知らない人たちばかりで。
興奮したような日向に相槌を打っていると、武田先生から試合が始まると伝えられた。
バスケはバレーと違って、試合は時間で決まっている。
バレーは決められた点数に到達し、必要セットを取れば、そこで試合は終了。
だから試合が早く終わることもあれば、遅く終わることもある。
だけど、バスケは違う。
「うわ…。」
テレビに映る映像を観て、なのか、月島の引いたような声が小さく耳に届いた。
画面に映るのは、あからさまにこっち側の選手を馬鹿にしたようなプレー。
ストバスなんかそんなもんだろ、と言ってしまえばそれまでだが、あれはどうにもやり過ぎな気がする。
いや、明らかにやり過ぎだろう。
「んだよ、あれ…。」
「…ストバスは、相手を挑発したりすること自体は珍しくないんだよね。むしろ俺は、それが当然だと思う。」
悔しそうな、腹立たしいような。
そんな声色で呟く田中さんを見て、月島とはまたモノが違えど、あんな正々堂々としたプレイを続けていたバレー部からしたら、あれは屈辱的なスポーツにも見えるのだろう。
だけど、ストバスは少し違う。
「そんな技で相手をおちょくったり挑発するのは、ストバスじゃむしろハイテクニック。キメたらクールだと賞賛されるほどにね。」
「でもあんなの、全然」
「けど、アイツらは"それ"しかしてない。見下してるんだろうな。ここまでされたら選手は当然、観てる人たちもやるせない気持ちだろうね。」
日向の言葉を遮り、決してあの対戦側を褒めているわけではないと、ただ客観的に観た上での感想であることを伝える。
こんな試合は、誰も望んではいないだろう。
でもそんな屈辱的で圧倒的な状況であっても、バレーと違うバスケットという競技は、第4Qが終わるまでは試合が終わらない。
とどのつまり、"どんなに相手から遊ばれていようが実力差があろうが、40分経つまで終わることが出来ない"ということ…。
まるで、帝光時代の試合を観ているような…そんな気分だ。
「ジャバウォック、ね…。」
あまりにも悲惨な、馬鹿にしたような親善試合。
極めつけには、バスケをする日本人全員のことを猿呼ばわり。
ご丁寧に子どもの夢までぶち壊しやがって。
この偉そうにしてる奴は、まあ…。
いい死に方はしないだろうなあ。
「なんっだこいつら!!猿だと!?馬鹿にしてんのかぁあ!!」
「田中落ち着け。」
「これが落ち着いてられっかぁあ!!」
「西谷も落ち着け!」
何故か西谷さんと田中さんがヒートアップしているのを縁下さんたちが止める中、俺の意識は未だにテレビに向かっていた。
『一週間後にリベンジマッチだ!』
日本側の監督だかが、テレビのマイクも拾うほどの音量でそう言い放った。
ま、あんだけ馬鹿にされたようなプレイばかりをやられたら、怒るのも無理ねえわな。
無理矢理のように終わらせられたテレビ中継。
バスケをしていた俺がいるからなのか、機嫌を伺うような少し気まずそうな雰囲気と、猿呼ばわりされていたことに対する怒りの雰囲気とで、空気は好ましくない。
まあ、あんな風にスポーツしてる奴が馬鹿にされたら、そりゃ少しは腹立つ…かもな。
武田先生は責任を感じてか、少し暗いし。
別に俺、気にしてねえんだけど。
「!……。」
体育館に戻る途中、ポケットに入れていた携帯が震えた。
先生たちの目を盗んで中を確認すれば、それの相手は赤司からで。
内容まで見なくても、想像はつく。
タイミングがタイミングだし。
「センセー。」
「しし、し、白布くん!ご、ごめんね!あのっ、あんな感じだとは思わなく」
「俺、ジャバウォック倒すために東京行ってくるわ。」
「そうだよね、東京に…へ?」
−−−えええええっ!?!
ジャバウォックを倒すために東京へ行く。
そう言えば、武田先生が素っ頓狂な声を挙げ、その場にいた全員(月島以外か)が更に大声で奇声をあげた。