土地勘にもブランクです

新幹線で東京に到着し、春高以来でその地に足を付ける。
用意された地図に目を向け、指定された体育館へ向かうのが今の目標。

…だが。



「…やっべ。全然わかんねえわ。」



地図が読めない。







「……着いた。」



やっと辿り着いた体育館。
所要時間は、約2時間だ。
約束していた時間を大幅に過ぎている。

きっと緑間辺りからどやされるんだろうな。
そう思うと、今からでも宮城に帰りたくなった。
まあ、宮城に帰ったところで夜にはまたバスに乗り、梟谷グループとの合宿のために東京へ来る羽目になるんだろうけど。



「…遅れてすいません。烏野高校2年、白布雄魔です。」

「やっと来たか。」

「しらちんおせー。」

「白布!遅いのだよ!」

「迷った。」

「相変わらずっスねぇ、白布っち。」

「お久しぶりです、白布くん。」

「ったく、社長出勤もいい加減にしろよ。」



俺を迎え入れてくれたのは、変わらずな帝光中のメンバーで。
思わず笑みが溢れた。



「ユウくーーーん!」

「グハッ!?」

「さつきおまえ、ユウ死ぬぞ。」



そうそう。
サツキチからのダイレクトアタックも恒例だ。



「初めまして。さっきも言いましたが、宮城県烏野高校から来ました、白布雄魔です。帝光中では一応レギュラーやってましたが、ブランクあるんであんま期待とかしないでくださいね。」

「ああ、赤司と桃井から話しは聞いていた。俺はこのドリームチーム限定で監督をやってる、相田景虎だ。」

「どうも。よろしくお願いします。」



顔見知り以外との顔合わせを済まして、ようやく練習着として持参した烏野高校のジャージに着替える。
着替えてコートに出れば、青峰から「遅ェんだよ」と文句を言われながらもボールを投げられたので、受け取ってやった。
相変わらず俺、優しいねえ。



「さっきの口振りじゃあ、バスケはあんまりしてないってことみたいだからな。軽くで良いから、実力を見せてもらいたい。」

「てことで、チームワークと練習を兼ねて3on3のミニゲームをしようと思うの。」

「残りの人は自主練か見学か、好きな方をしていてくださいね。」



景虎さんに言われて、簡単なミニゲームをすることになった。
チーム分けはサツキチがやってくれたようで、赤司、黄瀬、俺のチームと高尾くん、青峰、紫原のチームで分かれる。
いや、向こうデケェな。

ジャンプボールは黄瀬と青峰。
高さは五分だろうか。
黄瀬に「取られたら埋めんぞ」と冗談で言ってやれば、半泣きで「嫌っスよ!」と言われた。
別に本気で言ってねえわ。



「!」

「流石はキセキの世代と争った、元帝光中のレギュラー…ってとこだな。」

「(ユウくんかっこいい…!)」



俺にはブランクがある。
でも、舐めてもらっても困るんだよ。

あのプレッシャーが効いたのか、ボールは黄瀬が勝ち取り、赤司の元へ。
赤司のパスが俺に投げられ、対峙する紫原との1on1になる。

高さじゃ俺は当然、紫原には勝てない。
けど、あのマンモスバスケ部の帝光でレギュラーに入っていたし、伊達にこいつらと同じコートに立ってないんだよ。



「まずは1点先取ってことで。」

「うっざ…!」



紫原のブロックを避け、ダブルクラッチでシュートを決める。
ああ、紫原のその嫌そうな顔。
相変わらず堪んない。



「あいっ変わらず読めねえ動きしやがって…!」

「すげ…。あの人ほんとにブランクあんのって話しよ…。」

「白布は中学から実力を抑えていたからね。オレにも白布の本気は未知数だよ。」

「でも、あの頃より楽しそうっスね!」



プレイしていて解る。
こいつらはもう、あのときみたく、猛者を求めることに執着していないし、個人で勝利しようともしていない。

なら俺は、当時やりたかったこと、出来たことをフルでやってやれば良い。



「いだっ!!?」

「…でもまあ、やっぱブランクはあるみたいだけどお。」

「白布、調子に乗ってはダメだよ。」



なんて言っても。
俺にはブランクがあるから、当然掴めない感覚は出てくるもので。
ストップが効かず、紫原のブロックに正面からぶつかってしまったときは思わず日向の顔が思い浮かんだ。

パスを回せば良いのに、ブランクを抱えているくせに自分で突っ込むなんて。
もしかして、今は俺が1番、チームプレイを乱しているのかもしれない。
バレー部で連携プレイの大切さは学んだはずだし、当時のプレイスタイルに不満を持ってたはずなのにな。
恥ずかしい恥ずかしい。



「みんな落ち着いてるわね…。白布くんもたまにブランクを感じさせるような動きはあるけど、それでも充分過ぎるわ…。」

「だな…。赤司と桃井から高校ではバスケを続けていないと聞いたときにはどうしたもんかと思ったが、キセキの世代にここまで引けを取らないとはな。」

「……ユウくん、本当はみんなと同じで、バスケがだいすきだったんですよ。でも、仲間もバスケも好きだったけど、当時はみんなと分かり合えないって…もうやりたくないって、バスケを遠ざけていたんです。」



思ったよりも、落ち着いたプレイが出来ている。
だからミニゲームを見つめる3人のやり取りが、耳に入って来た。

そうだ、俺は、本当はバスケが好きだったんだ。
でも、執着はしていない。
自分でも矛盾していると思うけど、だからこそ、嫌だと思ったバスケとすんなり離れることが出来た。
…まあ結局、戻ってはいるけれど。



「白布っち!キメるっスよ!」

「ったく、最後の点で投げんじゃねー、よ!」



ハーフラインから、ボールを投げる。
緑間ほど正確ではないけれど、それなりにであれば俺にもパワーはあって、そこから決めることも出来た。

今回はついているらしい。
おは朝占いは、1位だろうか。

パスッと音を立て、危なげもなくゴールへとボールが吸い込まれる。
これで、俺のいるチームの勝ちが決まった。



「はは、真ちゃんかよ…。」

「しらちんうざぁ…。」

「おい紫原!俺だって傷付くからな!」



もしこれが、赤司からの気遣いだとして。
過去に仲間として、レギュラーとして戦った俺への餞別だとしたら、もうこれで充分だ。

またこうして、こいつらと笑い合うことが出来て、プレイすることが出来て。
ジャバウォックを倒していないのに、俺は満足感で胸が満ちていた。



「白布。解っているとは思うが、本当の戦いはこれからだ。」

「…そうだ、んんッ!?」



赤司から練習メニューとして手渡された紙。
言葉に返事を返しながらそれに目を向けると、そこには恐ろしいメニューが書かれていた。



「ブランクを抱えているんだ。おまえには丁度いいメニューだろう?」

「…アリガトウゴザイマス、赤司サマ…。」



恐ろしい程の基礎練の量に加え、このドリームチームとの連携プレイのための練習。
これが1日の練習量だなんて、誰が信じられる。
烏野のバスケ部ですら、こんなメニューは渡して来なかったのに。

俺、帰ったらまた浮くんだろうなあ…。
これじゃヒトカの手伝いに集中しても、お釣りが出るわ…。

取り敢えず、吐かないようにはしよう。