負けられない戦い

「ハァアッ!?」

「うるせぇ!!静かにしろ!!」

「あ、ワリ…じゃなくて!」

「白布、まだ元気が有り余っているのなら、特別メニューでも渡してやろうか?」

「すんませんベランダ行ってきます。」



ジャバウォックとの再戦を明日に控えた夜。
電話でのやり取りで思わず大声をあげた俺に怒りの声を向ける青峰と赤司から逃げるように、ホテルのベランダへと逃げ込んだ。
いや、今更だけどなんで青峰もホテル泊まってんだよ、帰れよ自宅に。

ベランダに出れば、宮城とはまた別の暑さを感じて眉を顰める。
エアコンが恋しい。
けれどまた部屋に戻ってしまえば、電話の相手からまた爆弾発言をされたとき、赤司から鉄槌が下ることは目に見えているからと諦める。
まあ、ベランダと言えど声は響くだろうから、控えめにはしなきゃいけないんだが。

それより。



「で、どういうことなんだよ日向。」

『だーかーらー!せっかく東京居るし、雄魔が出るからって盛り上がって、みんなチケット買ったんだよ!』

「よく買ったね!?」

『俺たちは雄魔が出るって言ったら親が結構買ってくれてたんだけど、こっちの奴らも買ったらしいんだよ!』

「もう意味が解らない!」



電話の相手は、もちろん日向。
相変わらず意味がよく伝わらない説明をしてくれていたが、要約すると烏野、音駒、梟谷の3年と2年、それから音駒、梟谷OBの一部がわざわざ観に来るらしい。

なるほど。
だから昨日、赤葦くんから「雄魔、俺に何か言うことは?」なんて意味深なメール来たわけか。
返してないけど。



『雄魔がアメリカチームとの試合に出て活躍するってスガさんに言ったら、他の2人も誘って東京まで観に来るって言ってたぞ!』

「ねえ俺盛って話すなって言ったよね!?特にスガさんにはすんなって言ったよ!?おまえ耳ついてんの!?」



ああ、もう、穴があったら入りたい。
赤司から与えられたメニューをこなすだけでボロボロでヘトヘトな俺が、試合に出させてもらえるはずがないのに。
どうしてこいつは、ベラベラと盛った話しをするんだろうか。

しかも話しによると、嶋田さんたちもテレビ中継で観るらしいし、会場に来れないメンツや1年生、それから残ってる保護者の先生たちも中継で見守るらしい。
もう観てもいいから、俺を観ないでほしいと切実に願う。



『俺さ、雄魔にはめちゃくちゃ助けられたし、正式なメンバーじゃないのに春高まで付いてきてくれたことにも感謝してるんだ。』

「…何さ急に。」

『でもそれは、俺だけじゃなくて、みんなも思ってて。梟谷グループの人たちも雄魔を仲間と思ってるから、活躍するとこ応援したいんだよ。』

「………ほんっとおまえって、恥ずかしい奴だよね。」

『あ、ウシワカや大王様たちも観るって五色と金田一が言ってたぞ!あと伊達工も!』

「いやもう全員じゃねーか!!!」

「白布?」

「ヒィイッ!寝る!寝ます!」



急に真面目なことを言うと思ったら、またしても爆弾発言を投下して来る日向は恨めしい。
声をあげれば、窓越しに真顔の赤司に名を呼ばれて、思わず身体が引き攣る。
寝ますと言えば、呆れた表情をしてカーテンを閉めたから、取り敢えずは許してもらえたらしい。
恐ろしいから早く寝よう。

…それにしても、ウシワカさんと及川大王様が観るって五色と金田一が言ってたってことは、つまりは白鳥沢と青葉城西全体が観るってことだろ。
加えて伊達工も、とか、俺が烏野高校バレー部と形式上関わりがないにしろ、ある意味因縁深い高校全体が観てるなんて、とんでもないプレッシャーじゃないか。

この調子じゃきっと、春高で日向とアドレス交換した人たちも観てるんだろうな…。
めんどくさいから俺、一切交換しなかったのに。

いや待てよ、白鳥沢が観るってことは、賢二郎も観るってことじゃん。
くそ、ヘマしたら赤葦くん同様何かしら言ってきそうじゃねえか!



『雄魔!明日、頑張れよ!』

「…言われなくとも。明日、試合出なくても文句言うなよ。」

『あんなとこに選ばれるだけですげぇよ!俺なんて呼ばれたことねえのに…。』

「わりーわりー。あ、周りに言っといてよ。俺は出るか解りませんって。」

『おまえってほんっとネガティブだよな。』

「あんな天才に囲まれて中学時代過ごせば、そりゃそうなるから。明日、うちの天才どもを見ても驚くなよ。」



「じゃあな」と言って、日向との電話を終える。
変にプレッシャーを貰うくらいなら、日向の電話なんか無視してやれば良かった。
もしヒトカが何か困ってるけど1人で解決しようとしてるとか、そういった類の相談だったらと思って出たのが間違いだったな。
そもそも日向はそんなに気が利かない、たぶん。

…まあでも、プレッシャーは与えられど、緊張は少しは解せたかもしれない。
役割があるかは解らないけれど、俺は俺なりに、招集が掛けられたときに思ったことと同じよう、俺に出来ることをすれば良い。



「ありがとな、日向。」



誰に向かって言うでもなく、そう呟いた。

当然、部屋に戻ってから真顔の赤司に「遅い」と説教されたことは。
言うまでもなく、伝わるだろう。