そして、試合開始のベルが鳴る。
観客は見知らぬ俺を見て動揺した声が上がっているけれど、そんなものは関係ない。
俺は俺のプレイで、この場に立っている意味を見せるしかないんだ。
と言うか、観客よりも何よりも、俺が1番困惑して動揺してんのよ。
数合わせで呼ばれただけかと思いきや、流れを持って来るための大事なスターティングメンバーに起用されて、これが動揺しないでいられるか。
「はぁ〜あ…。俺さぁ、この中で1番しょぼいんだよねぇ…。」
『はや、っ…!』
赤司からパスを貰い、全力で相手のゴールへ走る。
そしてガタンッ、と音を立てて、俺のダンクをキメてやった。
一瞬にして静まった会場も、すぐに歓声があがって賑やかになる。
ったく、目立ちたくなかったのになあ。
あーあ、めんどくさい。
これも全部、俺以上に腹を立てていた、田中さんのせいだ。
「言ったろ、赤司が。地べたを舐めさせてやるって。だから俺は、弱者なりに出来る限りでやりきるだけだよ。」
『あぁ…ッ!?』
俺だけじゃない。
周りが、あいつらが。
屈辱全てとは言わずとも、馬鹿にしていた猿に負ける感覚、味あわせてやる。
俺たちはコイツらジャバウォックにだけは、負ける訳にはいかない。
▽
ただ一言。
すげぇ、としか言いようがなかった。
「…雄魔って、相当強かったんだな。」
「ああ、球技大会で日向とバスケに出てたときも素人目で見ても凄いって感じだったけど…。」
「でも球技大会のときと比べたら、すべてが天と地の差があるように見えますね…。」
西谷さんの言葉に同意するように、縁下さん、山口が呟いた。
俺は前に、球技大会で無理に雄魔をバスケに誘って、そして主に俺を馬鹿にしてたバスケ部の奴らをプレイで黙らせたところを見たけど。
これは、あんなのは所詮、球技大会だったんだって思わされるほどだった。
「っらぁ!!」
気迫も、速さも、技術も、たぶんあのときの何倍もレベルが高い。
雄魔の周りの奴らも俺とタメなのに、俺どころか月島よりもデケェ奴が居て、パワーもあって、速さもあって。
それに自然と混ざった実力がある雄魔を凄いと尊敬すると同時に、罪悪感を感じた。
見ていたら解る。
雄魔は、俺がバレーを好きなように、あいつもバスケが好きなんだ。
それなのに、俺がバレー部に引っ張って、暇ならブロックしてと、手伝ってくれと頼んで、結局今も、バスケ部に入部したのに、谷地さんの手伝いや引き継ぎでバスケに集中出来ていない。
雄魔は「気にすんな」って笑うけど、こんなの見たら、気にしない方がおかしいんだ。
たまに見える遅れに悔しがってる雄魔はきっと、バスケに集中出来ないことが原因なんだって思ってるはずだから。
「日向?」
「や、谷地さん?」
「どうしたの?元気ないね。雄魔くん出てるのに、嬉しくないの?」
「いや、その…。その雄魔が、俺のせいでバスケに集中出来てなくて、ネガティブになってるのかも、って思ったらなんか、すげぇ申し訳なくなって…。」
だんだんと下を向いて来た視線を気にしてか、谷地さんに声を掛けられる。
同じマネージャー業をしている谷地さんなら、雄魔の気持ちを俺よりも言われて、知ってるかもしれない。
だからなのか、谷地さんに言って何かが変わるわけではないけど、なんとなく、谷地さんには言ってしまった。
「そんなこと言ったら、雄魔くんに怒られるよ、日向!」
「へ?」
まだ合宿スケジュールはあるから、こうやって気持ちを下げている場合じゃないけど。
でも、言えば少しは落ち着くかと思って言葉にして、なんとか落ち着かせようとしていたら、谷地さんから雄魔に怒られると言われた。
「雄魔くん、言ってたんだ。たぶんみんなにも言ったと思うけど、仲間とかそんなもの、有り得ないって。」
谷地さんの言葉を聞いて、去年を思い出した。
確かに雄魔は、あの頃、チームワークや仲間を毛嫌いしているような空気を出していたけど、その反面、切望するような雰囲気もあったと。
それに引っ張られるように、スガさんや西谷さんを筆頭に先輩たちが輪に入れて。
そして、雄魔も俺たちの中で笑ってくれるようになった。
「秘密だよ?雄魔くんね、日向には感謝してるって言ってたんだ。」
「雄魔が!?」
「うん。中学時代の部活の方針が嫌いで、仲間とも呼べないチームメイトが嫌いで、バスケも仲間もみんな嫌いになったけど、日向が引っ張ってバレー部を見せてくれたお陰で、またやり直せる、二度とやらないと思ったバスケを、また続けたくなった、って。」
「知らな、かった…。」
あの雄魔が谷地さんに、そんなことまで言っていたことも驚きだけど。
春高以降、俺にバスケ部に入部すると宣言して、良い顔になってたのは、知らない間に俺も関係していたなんて。
「絶対に秘密だよ」と谷地さんから念を押されたけど、秘密にしないでと言われても、面と向かって言ってこない奴に、絶対言ってやんねえ。
だから俺も、今楽しそうに、仲間とプレイしてる雄魔に「良かったな!」なんて、絶対言ってやんねえんだからな。
「いっけー!雄魔ー!」
赤い髪の人から、ボールを投げられた雄魔。
届くようにと祈りながら名前を叫べば、同時にダンクシュートをキメていた。
くっそ、かっけぇな…!
あんな奴らに負けんなよ、雄魔!