微笑ましいコイツら

■ ■ ■

コン、コンッ

静かな廊下にこだまするノックの音は、マルクト軍第三師団師団長ジェイド・カーティス大佐の執務室の扉から聞こえてくるものだった。ノックをしたのはマルクト兵である眞喜だ。

「失礼します」

大量の資料を抱えた眞喜は器用にドアを開けて体を滑り込ませる。ジェイドの執務室では、物音どころかペンを走らせる音すら立っていなかった。書類を入口付近の机に置いた眞喜は珍しいこともあるものだと思い、ジェイドの執務机を振り返る。すると、ジェイドは机に肘を突いた手に頬を乗せて、目を閉じていた。足を忍ばせてジェイドに近づいた眞喜。軍人としての癖なのか、ジェイドは近づき、耳をそばだてていないと分からないほどに息を潜めて眠っていた。眞喜は思わずくすりと笑うと、物音を立てないようにクローゼットから薄手の毛布を取り出しジェイドの肩にそっとかけようと手を伸ばす。そして、その寝顔を眺めた感想をぽろりと零した。

「こうやって黙ってれば美人なのにねぇ……」

「それはそれは。お褒めに預かり光栄です」

「っ!!」

どうやら寝たふりをしていたらしいジェイドは、眞喜の手首を掴んで立ち上がった。そして、からかうような笑顔でこう言うのだ。

「貴女の方が、何倍も美しいですよ」

こうやってさらりと恥ずかしい台詞を吐くのは眞喜が動揺するのを期待してということらしいが、彼女は嬉しそうに笑い、こう言い返した。

「ジェイド、愛してる」

愛の言葉を恥ずかしげもなく囁き合えるのは、既にこのふたりの才能とも言えるのか。ジェイドはまるで、その言葉を聞くために演技をしていたといわんばかりに満足そうな笑みを浮かべると、眞喜の持つ毛布を受け取りそれを畳んだ。

「お気遣い、感謝します。貴女が運んできた書類も合わせてまだ結構な仕事が残っているんですよ。手伝っていただけますか?」

毛布を執務椅子の背もたれに掛けたジェイドは僅かに首を傾げてみせた。

「それも含めて私の仕事ですから」

それを受けたジェイドは柔らかな笑みを浮かべ、眞喜も嬉しそうに笑みを返した。