合縁奇縁

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常に非日常が渦巻いている街――池袋。この街には有名人が何人かいるけど、その中でもずば抜けて有名なのが平和島静雄だ。自動喧嘩人形と証される彼とは今から約一週間前に出会った。


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街中で『素敵で無敵な情報屋』こと折原臨也と喧嘩している所に私は巻き込まれてしまう。他の野次馬たちより一歩踏み込んで喧嘩を見物していた私に、静雄が投げたコンビニのごみ箱がクリティカルヒットしたのだ。吹き飛んだ私を心配した静雄。そこから私と静雄との関係は始まった。


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「おい、待てよ」

「嫌よ」

今私の後ろをついて来るのはかの有名なライトノベル『デュラララ!!』の登場人物である平和島静雄。彼とは一週間程前に出会い、それからというもの見かける度に話し掛けられた。始めに会った時、私を巻き込んだ詫びをしたいとのことらしい。始めは静雄の申し出を受けようと思ったけど、お察しの通り私はこの世界の住人ではなく、私の世界で彼は小説の中の人だ。
彼は私にとって憧れの対象であり、それは日を追う毎に募り恋愛にも似た感情を私に与えた。彼のストレートに感情を表現できるのが羨ましくて仕方なかったのだ。しかし静雄は小説の中の、所詮は創作の人物――。そう思っていたのに。
一週間前、いつの間にか私はこの世界にいた。本当に気がついたらこの池袋にいたのだ。それが嬉しくて嬉しくて堪らなくて。私は始め、自分を心配してくれる静雄のことも嬉しかった。けど、私は直ぐにあることに気づく。

「……ねぇ」

私が歩みを止めると、それに合わせて静雄も数メートル離れた所に立ち止まった。そして私はなるべく冷静になるよう口を開く。

「もう付いて来ないで。迷惑です」

それだけ言って、私は踵を返して行くあてのない歩みを再開する。一瞬静雄が何か言いたげな顔をしたが無視した。もうこれ以上静雄の顔は見たくない。だって、つい一週間前出逢ったばかりで、しかも私はただ喧嘩に巻き込まれただけ。なのに何で静雄はここまで私の事を気にするの?ここまで心配される義理もない。それに、もうこれ以上私の中にリアルの静雄を入れたくはなかった。だって……――

「待てよ!」

私が数歩進んだところで、後ろから静雄に腕を掴まれた。驚いて私が振り向くと、直ぐ前に静雄が。

「何でそんなに俺のこと避けるんだよ」

そう言った静雄の顔は少しの怒気と少しの悲しさが含まれているように見えた。私は静雄の手を振り払い、静雄を正面に見据える。

「……じゃあ何で静雄はこんなに私の事を気にかけるの」

私の言葉に静雄は一瞬目を見開いて驚いたように硬直した。その様は自分でも理由が分かっていないようで、少しだけ、静雄らしいと心が疼いた。静雄は数秒だけ迷い、顔色を変えずに口を開く。

「……多分、一目惚れした。……お前に」

「……は?」

その台詞に当然の如く私は驚き、それと同時に嬉しさと寂しさが込み上げてきた。私の表情を読み取った静雄は何か勘違いしたようで、

「あ……。悪ぃ、俺なんかに言われてもしゃあねぇよな」

と、後悔したように頭を掻いた。その表情があまりにも前衛的で、私はつい口走る。

「ううん、嬉しい、とっても」

しかし私にはそれだけで終われない理由があって。

「でもゴメン。もう私に近づかないで」

そう、本来なら心にも無いことを言う。この私の矛盾だらけの言葉に静雄は目を白黒させ、唖然とした。
……そんな顔しないでよ、未練が残るじゃない。所詮私はこの世界の住人じゃない。元の世界に帰らなくちゃいけないかもしれないし、それがいつかも分からない。そんな状態で私は静雄と仲良くなんてなりたくなかった。……別れの時が悲しくなるから。それに、これを静雄に打ち明けるわけにもいけないし。信じるわけない。それに信じたとしても別れの時が来なくなるわけでもない。だから私はもう一度、重ねて別れの言葉を口にする。

「嬉しいけどダメなの。お願いだからもう私に近づかないで」

そう言ってまた踵を返そうと足を動かすと、静雄に腕を引かれ、そのまま抱きしめられた。

「……泣くなよ」

その言葉で、私は自分の双眸から涙が流れていることに気づく。

「……な、んで……」

自分で驚いた。こんなにも静雄が好きだったことと、もうすでに未練が募ってしまっていたことに。……もう、これは離れられないかもしれない。この池袋から、そして私を気にかけてくれた静雄から――。私が涙を拭くと、静雄は身体を離しバツの悪そうな顔で

「……悪ぃ」

と謝罪の言葉を落として踵を返した。咄嗟に私は静雄の服を掴んで引き止め、笑顔を向けた。

「ごめんなさい、さっきのはナシで……いい……?」

言って私が首を傾げると、さっきから可笑しな言動の私の言葉に静雄は顔を赤くしながら頷いた。

「……あぁ」

そしてその後、私は静雄に自分がこの世界の住人ではないこと、それから静雄への想いと未練をを告げると用意に信じてくれて、

「ならその時が来るまでにお前をシアワセ一杯にしてやるよ」

と私を抱きしめてくれた。