騒音日常
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風がよく通る校舎の屋上。本来なら生徒は立入禁止だが、昼休みには一部の生徒がこっそりと使用している。
ある日の昼休み。弁当も持たず、立入禁止の屋上に入ってきた人物が4人。この来神高校に通う岸谷新羅、門田京平、折原臨也、平和島静雄だ。彼ら4人は、皆同じ目的を持って屋上まで来ているのだが、その目的は4限目が終わって10分ほど経った今でも達成されていなかった。
「遅いねぇ、彼女」
退屈そうに空を見上げ、ひとりごちる臨也に誰も答えようとはしない。
「……ちっ」
「どこ行くのさ、静雄」
待ちきれなくて横になっていた半身を起こした静雄に、新羅が声をかける。静雄は煩わしそうに一瞥すると、屋上のドアノブに手を伸ばした。
「オレが迎えに行く」
静雄がノブに手を掛けたその時、ドアが内側から勢いよく開け放たれた。
「ごめんっ!」
ドアから響いた鈍い音を気にする様子も無く、校舎から出てきた少女――眞喜は屋上の中央に持っていた包みを広げ始める。彼女こそ4人の待ち人であり、4人の目的は眞喜が持ってきた5人分の弁当であった。眞喜を見た3人は、各々好きなように弁当の周りに座る。
「……あれ?3人?静雄は?」
静雄が居ないことに気づいた眞喜に、京平がドアの方を指さした。ドアの前で固まって動かない静雄。閉じられたドアは若干へこみができていた。
「あれだけの音がしたのに気づかないなんて、ある意味すごいよ眞喜ちゃん」
「ってか、どれだけの力でドア開けたのさ」
からからと笑う新羅と呆れ顔の臨也に顔を赤くしながら、眞喜はそろそろと静雄に近づいた。
「あのー……。静雄?ごめん、大丈夫?」
眞喜がゆっくりと静雄の顔を覗くと、静雄は鼻先が少し赤くなっているだけで鼻血すら出ていなかった。
「流石シズちゃんだね。すっごい頑丈」
握り飯を頬張りながらからかうように笑う臨也に反応して、静雄の肩がピクリとはねた。――マズい。直感的にそう感じた眞喜は、静雄から一歩後ずさる。ゆっくりとドアノブに手を伸ばす静雄とは対照的に、臨也は素早く立ち上がり、屋上の端へと避難した。
「いぃぃざぁぁやぁぁぁぁ……」
獣が呻るような声を上げて、静雄はあっさりとドアを引き千切った。そしてそれを臨也へと投げつけるが、彼はそれをあっさりとかわし、高笑いを残して校舎内へと逃亡。静雄がそれを見逃すはずも無く、怒鳴り声を上げながらそれを負っていった。
「あ、ちょっ、静雄!!……大丈夫かなぁ、もう」
ぽつんと取り残されてしまった眞喜。あれだけの騒動でも箸を進めていた京平が眞喜を手招きした。
「ほっとけよ。さっさと食わないと昼休み潰れちまうぞ」
「うん…。そうだね」
明るく頷いて座った眞喜は、それでも少し、静雄のことを心配しているようだった。ので、新羅がまたしても笑いながら言う。
「それにしても、臨也より静雄の方を心配するなんて、眞喜ちゃんもけっこう変わってる?」
「新羅に言われたくないよ」
そう言って笑いながら、眞喜は静雄の分を別に用意してあったタッパーに詰め始める。このところ毎日このパターンだから。今日も穏やかな騒音の聞こえる昼休みを過ごす。池袋にある来神高校では、これが日常の風景なのである。