保健室レイド

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寒空が広がる今日この頃。バケツに張った水さえも凍りつきそうなこの日に、何故体育の授業などあるのか。しかも屋外で。
しかし、そんな冷気とはもうおさらばなのである。それは授業が終わったわけでも、ましてや教師が生徒を気遣い授業を中止すたわけでもない。見よ!この血に塗れた膝を!寒さで足がもつれて派手に転んだのよ!つまり、今私は保健室に向かっているわけで。保健室の前に着くと、3回ノックして扉を開けた。

「失礼します」

と言って部屋の中に入ると、保険の先生こと高杉晋助先生は眼鏡を掛けてパソコンと向き合っていた。私に気づいた先生は顔を上げ、一瞥をすると、

「あァ、田中か。少し待ってろ」

とだけ言って視線をパソコンに戻した。先生に言われた通り、薬棚の傍らにある椅子に腰掛け先生を待つ。……しかし、事務の間だけとはいえ眼鏡を掛けた先生は格好良すぎる。生徒にも先生にもモテるのはわかるなぁ……。そんなこんなを考えていると、先生が椅子から立ち上がる音が。眼鏡を外した先生が、煩わしげに私の正面に座った。まじまじと私の膝を見て、愉しそうに咽の奥で嗤う。

「ククッ、また派手に転んだなァ。いい加減、受け身くらいとれるようになれや」

そう言いながらも、先生は「足、上げろ」と私に指示を下す。実のところ、私はしょっちゅう怪我をするため、保健室の常連さんになっているのだ。どうやら私は怪我をする状況を感知しても何故か、それを避けたり防いだりしないようなのだ。私が言われたとおりに足を上げると、先生が冷たくなった手を添える。この暖房の効いた部屋でどうしてこんなに手、冷たいのよ。若干鳥肌を震わせながらじっとしていると、先生は溢れる血を拭う様子もなく顔を膝に近づけ……っ!

「たあああぁぁぁぁ!?」

「煩ェよ」

眼帯で覆われていない方の目で見上げられ、つい黙ってしまう。先生は傷口を避けながら血を舐め取り始めたのだ。擦り傷というよりもこけた地点にあった石によって切り傷となった傷口。ざらりとしたものが膝を滑る感覚に全身が粟立つ。黙々と血を拭う晋助は大方血を舐め終わると、未だ血の流れる傷の周りを甘噛みし始めた。

「いっ……」

痛みを堪えつつ、眞喜は眉間に皺を寄せる。晋助が何を考えているか分からず為すがままにされていると、暫くして晋助が顔を上げた。舌なめずりをした晋助はここでようやく消毒液とコットンを取り出す。少しの間固まっていた眞喜であったが、出血の止まった傷口に消毒液を含んだコットンを宛がわれてハッとなった。

「ちょっ、先生、何だったんですか?今の」

眞喜の問いに、晋助は絆創膏を貼りながら言った。口許に妖しい笑みを浮かべながら。

「止血ついでに血を拭いたんだよ。手前ェが来る度ティッシュ使うのは無駄ってモンだろォ?」

その後、治療が終わり解放された眞喜に寒さを感じる余裕など到底ある筈もなかった。