保健室レイド〜高杉視点〜

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寒空が広がる今日この頃。バケツに張った水さえ凍りつきそうなこの日に、女子たちは元気に体育の授業を受けている。しかも保健室に面したグラウンドで。
元気なもんだと半ば感心しながら事務仕事をこなしていると、視界の隅でひとりの女子が派手に転んだ。見ると、そいつはよく怪我をしてよくこの保健室まで足を運んでくる田中眞喜だった。石ででも切ったのか、膝からは血がだくだくと溢れている。

「またか……」

今週何度目になるか分からない奴の来室に溜息を吐き、仕事を再開した。

程なくして、部屋にノックの音が響いた。続いてドアが開き「失礼します」と田中の声。今気づいたと言わんばかりに白々しく一瞥し、

「あァ田中か。少し待ってろ」

とだけ言ってやりかけの仕事を完成させにかかる。キリの良いところで切り上げ立ち上がると、田中はすでに椅子に座りぼぅっと惚けていた。先ほどまで掛けていた眼鏡を白衣のポケットに捻じ込み、田中の正面の椅子に腰掛ける。背筋を伸ばしている奴の膝を見て、先程の派手なこけ方を思い出し、つい笑い声が。

「ククッ、また派手に転んだなァ。いい加減、受け身くらいとれるようになれや」

そう言いつつも足を軽く上げさせて手を添え、容態を確かめる。傷は石で切ったのか切り傷になっていて、水道水で洗ってはいるが逆に水に誘発されて血が溢れている。まずは血を拭かないと……と思うが、如何せん、ティッシュは今事務机にあるので取りに行くのは正直面倒だ。……仕方ねェ。

「たあああぁぁぁぁ!?」

俺が血を舐め取ろうと膝に顔を近づけると、田中は悲鳴のような声を上げる。

「煩ェよ」

と上目遣いで言うと、田中は顔を赤らめて押し黙った。舌で傷口のふちをなぞると、咥内に鉄の味が充満する。一応洗ってはいるが、時折砂が口に入って最悪な舌触りが醸し出される。流れる血を全て拭い終わると、次は傷口の周りを甘噛みし始める。

「いっ……」

一瞬田中が痛みに顔を顰めたが気にせず血を吸った。そうして暫く血を絞り出していると、やがて血は出なくなる。止血が成功し、唇についた血を舌で拭って顔を上げた。放心中の田中を放置し、消毒液とコットン、それに絆創膏を取り出した。コットンに消毒液を含ませ傷に宛がうと、田中が肩を跳ねさせてハッとなった。

「ちょっ、先生、何だったんですか?今の」

焦った様子の田中に、今思いついた適当な言い訳を放つ。

「止血ついでに血を拭いたんだよ。手前ェが来る度ティッシュ使うのは無駄ってモンだろォ?」

処置が終わり田中が戻った後、晋助は無意識のうちに口角が上がっていたことに気づくのだった。