空気を読もう

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「まったくなんなんだか……」

広々とした和式の部屋にある男の年齢不相応な大きなため息が響く。折角の休日だってのに神楽も新八もいねぇ……。新八は道場に里帰り(?)。神楽は定春と酢昆布探し。

「誰も帰ってきやしねぇ……。折角の休みなのに近くに誰も居ない……って、まさに思春期の娘と妻に嫌われる中年親父さながらじゃねーか」

不機嫌そうに顔を歪ませた銀時は立ち上がり、家の戸口へと足を運んだ。

「あのダメガネや酢昆布娘ならともかく、眞喜まで来ねーってのは一体どういう了見だ」

戸口に鍵がかかったのを確かめた銀時は頭をがしがしと掻きむしって鍵を懐に仕舞った。

「まぁ、アイツは自分が空気っつーくらい空気読みすぎだから仕方ねぇか」





特にすることもなく町をぶらぶらする銀時。いつもと変わらない町並みを視界の隅に捉えながら歩いていたが、やがて目当てのものを見つけそれの隣を目指して歩いていった。

「よぉ。こんなとこで何してんだ?可愛いお嬢さん」

銀時が冗談めかして話しかけた相手は、眞喜だった。眞喜は初め少し驚いたように目を見開いたが、自分に話しかけたのが銀時だと理解すると、その顔を綻ばせて笑った。





「ほらよ」

「ありがとう、銀さん」

子供達がサッカーの練習をしている河川敷。その傍らの土手に、銀時と眞喜はふたり並んで腰掛けた。手にはガ〇ガリ君ソーダ味を持っている。ふたりはそれを齧りながら、少年少女のサッカーを眺めていたが、やがて銀時が口を開いた。

「今日は休みだって伝えておいたよな?」

「うん」

「何で俺んとこ来なかった?お陰で中年のオヤジの気分を味わっちまったぜ」

「せっかくの休みだから新八と神楽と出かけるかなって思って」

銀時は深い溜息をついて、ガ〇ガリ君がハズレなのを確かめて言った。

「お前は変に空気読みすぎなんだよ。逆にもう一切空気を読むな。たまには自分勝手に行動してみろよ」

考え込むようにガ〇ガリ君の棒を噛んでいた眞喜だったが、やがてちいさく頷いた。

「……うん、わかった」

その眞喜の顔を見た銀時は満足げに頷くと立ち上がり、来た道を指差した。

「んで、俺はこれから帰って休日をジャンプと共に過ごすハラだが、お前はどうすんだ?」

立ち上がった眞喜は、楽しそうにこう答えた。


「全身全霊で拒否されても銀さんの家にお邪魔させていただきます」