午睡

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空も高くなり、秋の色が濃くなった今日この頃。本日も変わりなくSOS団の活動は行われる。
部室まで到着した私は、廊下に男陣が居ないのを確認してノックを省き入室する。部屋にはみんな揃っていて、いつもと変わらぬ日常の風景があった。すっかりお馴染みメイド服のみくるちゃんはパイプ椅子に腰掛けて刺繍を。キョンくんと古泉くんはボードゲームを。これは見るからにキョンくんの圧勝っぽい。有希ちゃんは部屋の隅で昨日とは違う、これまた分厚いハードカバーを読んでいる。そして、我等が団長ハルヒちゃんは仏頂面でパソコンを弄っている。
やけに静かで、物音を立てるのを憚らざるをえない空間。この部室では如何に貴重な風景か、皆様にもわかっていただけるだろうか。いつもの定位置に着いた私に、みくるちゃんが素早くお茶を運んでくる。

「ありがとう」

そういって頭を軽く下げると、みくるちゃんはそそくさと元のパイプ椅子に収まった。お茶を一口啜り、

「おいし……」

と一言感想を零してから机の上にノートと参考書を広げる。特進クラスだと少し気を抜くとすぐに追い抜かれてしまうのですよ。しばらく無言の空間で勉強をしていた私だったが、あまりにも静かで睡魔が襲ってきた。こういう日常の何処にでもあるような普通の景色が続くとつい眠たくなってしまい。数式と睡魔のタッグに奮闘していた私だったが、いつの間にか完敗していたのは言うまでもないことであった。





私が目を覚ましたきっかけは、閉じてもなお目に刺さる赤光だった。窓から侵入する日光に目を細めながら、机に突っ伏していた上半身を起こす。

「お目覚めですか?田中さん」

窓に目を向けたまま呆けていると、机を挟んだ正面から声が聞こえてきた。そこには、夕日に赤く照らされた古泉くんが座っていた。

「よくお眠りでしたよ。いい夢でも見ましたか?」

デフォルトな笑顔で問い掛けてくる彼。この部屋には彼以外の人影はなかった。

「……あれ、他の皆は?」

詰碁でもしていたのか、彼は碁石と折り畳み式の碁盤を片付けながら言った。

「貴女が中々起きないので先に帰ってしまいました。…そうそう。涼宮さんが貴女の寝顔を賛美しながらデジカメで撮影してましたよ」

うわ、目が覚めた。明日になったらハルヒちゃんに写真の削除を要求しなくちゃ。時計に目をやると、短針は6の所を指していた。……あれ?

「何で古泉くんだけいるの?」

ふと疑問に思ったことを、部室のアナログゲーム置場と化した場所に囲碁セットを積み上げる古泉くんに向ける。彼は心なしかいつもよりからかうような笑顔で答えた。

「涼宮さんの副団長への命令もありますが、あまりにも貴女の寝顔が可愛くて、眺めていて退屈しませんでしたよ」

どういう意味よ、それ。

「……褒め言葉として受け取っておく」

身体の下に敷いていた、多少ふやけたノート類を片しながらワタシはそい言った。片付けを始めて鞄を持つ過程をにやにやして見つめていた彼は、私が立ち上がると同時に椅子を机の下に追いやった。

「では、僕もそろそろ帰りますか。団長の命令も無事こなすことができたわけですし。途中までご一緒しますか?」

部室に鍵をかけながら、古泉くんはそう提案した。私たちは家が同じ方面なので断る理由も義理もない。ので、

「うん」

そう答えた。そしてその後鍵を職員室まで持って行った私たちは同じ帰路に着いた。そこで私はとんでもない事実を知ることとなる。


(貴女の寝顔、僕も撮らせてもらいました。勿論、皆さんが帰った後で)
(!!その携帯電話寄越せ!今すぐ二つにへし折ってやる!!)