幸福(シアワセ)

■ ■ ■

田中眞喜はエクソシストである。つい先日までファインダーとして働いていたのだが、最近になって適合者だと判明したのだ。彼女は黒の教団アジア支部に住んでおり、今日誕生日を迎えた。

「やっぱり変わってる。この教団って」

先程まで大食堂で行われていた『宴』を思い出して口元を緩める。

「こんな戦争の真っ只中で『誕生日パーティー』だなんて……」

そう、今日は大食堂で彼女の誕生日パーティーが行われていたのだ。宴はついさっき終わったところで、彼女は自室に戻っているところだった。





自室に入った眞喜は思いきりベッドにダイブする。仰向けに転がると、ベッド一つ分程離れた出窓に人影が座っていることに気づく。

「何ニヤニヤしてんだ、不気味だな」

「元帥!?」

窓から部屋に侵入し出窓に腰を掛けていたのは、黒の教団のエクソシスト、元帥であるクロス・マリアンだった。クロスは窓から降り、眞喜のベッドに腰掛けると小さく眞喜の額をグーで小突いた。

「ク・ロ・ス」

「あ、ごめん」

眞喜はベッドの上に座り直しクロスの方を向く。

「今日ね、ここの皆で私の誕生パーティーをしてくれたの。で、クロスは何しに来たの?」

三日に一回は部屋に侵入してくるクロスに、眞喜はいつも通りの質問を投げかける。

「あぁ、そうだな」

と、焦らしながら服から小さな箱を取り出し、眞喜の前に差し出す。

「今日はお前の誕生日だろ」

「わぁ、嬉しい!!」

飛びつく勢いで箱を受け取る。

「開けてみな」

クロスの言う通りに箱を開けると、中には小さな眞喜の誕生石がついたネックレスが入っていた。早速ネックレスを取り出して首に掛けてクロスに見せる眞喜。

「ありがとう、とっても嬉しい」

「ハハッ。それは光栄だな」

カラカラと笑うクロスの肩に眞喜がもたれ掛かる。眞喜は日本出身のためアジア支部で働いていたのだが、最近エクソシストになったため数日のうちに本部に移ることが決まっている。

「本部に行ったら会えなくなっちゃうかもしれないね」

黒の教団からバッくれたクロスは殆ど本部近づこうとしない。膝を抱え込む眞喜を片手で優しく抱きしめるクロス。

「阿呆が…。本部でも何処でも、オレには潜り込める術があるだろーが」

腕を解き、眞喜の唇にリップ音を立てて優しいキスをする。眞喜が笑顔に戻るのを見届けるとベッドから腰を上げて立ち上がった。

「じぁあ、また明日来るからな」

クロスは眞喜の頭をわしわしと撫でると、入ってきた時と同じように窓の外に消えて行った。

いろんな人に恵まれて、自分は幸福だなぁとそんな事を考える今日この頃だった。