お面の少女登場

■ ■ ■

オレの名前はリクルート。
市ノ宮グループの御曹子だ。

わけあって荒川の河川敷に住むことになったオレだが、
未だにここの住人全員とは挨拶できていないようだと知った。

そして今日、日曜日。
ミサが終わり、橋の下の高台である
自宅に向かおうと踵を返そうとした時、


「待てリクルート。
紹介しなければならん者がいる」


と、ブラザー寄りのシスターに声を掛けられる。

振り向くと、シスターの前に小柄な、
無表情のお面をつけた人物が立っていた。

服装からして女の子だろうか。
色素の薄いその髪の毛はスーパー●イヤ人程ではないが
重力に逆らって立っている。

「この子の名は眞喜。
14歳の娘だ」

そうシスターが言うと、眞喜と呼ばれた女の子は
深くお辞儀をした。

あの村長がつけた名前のわりには結構まともだな。

「あぁ、よろしく。
リクルートです」

オレも一回お辞儀してもう一度少女の顔を見る。

――と、

少女のお面が無表情から微笑みのものに変わっていた。


「……ん?」


見間違いかと思い特に気にしないことにした。


「おお、眞喜じゃないか。
リクルートと挨拶してたのか?」

「ニノさん」


いつの間にかオレの傍に立っていた、
シスター製のクッキーを頬張っているニノさんが
眞喜の傍まで歩いていく。

その姿を目で追っていくと……


「!!」

また、少女のお面の表情が変わっていた。

今度は満面の笑みだ。


少女はニノさんに飛びつくと、ニノさんもそれに応えて
少女の頭を優しく撫でる。

「よしよし……。
…どうしたリク。眞喜のことを見つめて」


オレの驚愕の視線に気づいたニノさんは頭上にはてなを浮かべ、首を傾げた。

オレはわなわなと震える指を少女に向ける。

「いや、お面が……勝手に…」


オレの常識的疑問に答えたのはニノさんでも本人でもなく
彼女を紹介したシスターだった。


「そうか、お前には言い忘れていたが、
眞喜は口を利かないのだ。
話せないわけではないのだが、親に捨てられたショックの名残らしい。
自分の顔を見せるのも嫌い、面で表情を表現している」


シスターの真面目な顔での説明を聞いても
突っ込み所しか見当たらないオレのほうがおかしいのでしょうか…。

しかし、この程度でめげていてはこれから先が思いやられると
無理やり思い直したオレは眞喜の頭に手を置く。


「改めてよろしくな、眞喜」


頭に手を置かれた眞喜は始め驚いた顔をしていたが、
オレが頭を撫でると照れたような笑いを面に浮かべた。


こうして、新たに河川敷の仲間を知ったオレだった。