カデンツァ

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天高くから降ってくる瓦礫を見上げると、空一面に迫るデリスカーラーン。そこに連れて行かれたコレットを助けるべく、皆は駆け出して行った。
そんな中で、私は未だにここ、オリジンの封印の前で佇んでいる。……いや、どちらかというと、皆が気を遣って先に行ってくれたのか。私に『行くぞ』と声を掛けなかった事がつまり、そういうことだ。
半ばユアンさんに支えられるようにして立つクラトスを見て、これまでの想いがすべて溢れそうになる。自分でもよくこれまで抑えることができたと感心もするが、逆に、自分の心が数百年の時を刻んでも正常に機能しているという事実に驚きを覚えた。そんな感情を持て余し、癖のように胸元の輝石に手を当てる。クラトスと目が合い、彼はユアンさんの支える手を退け私と正面から向き合った。

「――……眞喜」

……彼に名前を呼ばれた途端に、抑え切れなくなったものが涙になって流れた。――ああ、彼はやはり、彼のままだ。きっとアンナさんが愛した、きっと、ミトスさんが敬愛していた、彼。言いたいことはいくらでもある。特に、オリジンの封印の事に関しては、言葉にしたら一晩じゃ足りない。それでも、彼に名前を呼ばれるだけで、彼が無事だったというだけで、自然と笑みが浮かんだ。
どちらからともなく歩み寄り、クラトスは眞喜の頬に手を沿える。親指で涙を拭い、彼は困ったように言う。

「泣くな、眞喜……」

それで更に涙が溢れ、胸元にあった手を振り上げた。握った拳は弱々しくクラトスの胸を打ち、そのまま眞喜は顔を伏せる。

「心配、させないでよ……」

言いたいことは、それこそ文字通り沢山あるのに。出てきた言葉は結局それだけだった。クラトスは眞喜の手をとって開き、ファーストエイドを唱える。――決闘の間、血が出る程にずっと握り締めていたのを彼は気付いていたのだろうか。そのままクラトスは眞喜の手を握り、胸元に引き寄せると、そのまま固く抱きしめた。

「すまない、眞喜……」

彼は弱々しくそう言うと体を離し、眞喜の額にそっと口づける。そして、優しく微笑んで言った。

「私と共にいてくれ、眞喜。――愛している…」


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(……そろそろ行くぞ)
(ユユユユユアンさん!?)
(フ…続きは森を出てから、だな)


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一方仲間たち
(あれで隠してるつもりなんだからねぇ)
(まったくだわ)
(ん?何だ?何のことだ?)
(ボクだって分かるよ、ロイド…)
(私にも…分かります)
(あまり若い者をからかうものじゃない)
(どっちもアンタよりずっと年上だっての〜)