暗闇での秘密
■ ■ ■
「なんか暗いね、ここ。それにいつ崩れてもおかしくないとこばっか」
「地面の下だからな」
無愛想に答えたのは、サイバックで働いているハーフエルフであるリヒター・アーベント。そして、その隣を歩くのは同じくハーフエルフの眞喜だ。ふたりはアステルと供に地の遺跡に調査に来たのだが、アステルは近くの町で壊れた調査器具を買いに行っている。そのため、今はふたりで遺跡内を散策しているのだ。無愛想なリヒターに、眞喜は頬を膨らませる。
「リヒターってアステルが居ないといきなり無愛想になるよね」
「……ほかの人間だと何を話していいのか分からなくなるだけだ」
「私ハーフエルフだもーん」
人付き合いが上手ではないリヒターは正直に答えるが、眞喜は拗ねているようで口を尖らせた。
「そういう屁理屈は――っ!眞喜っ!!」
リヒターが文句を言おうとしたところで、何が崩れる音と背中の痛みを感じた。
「眞喜…、大丈夫か?」
自分の腕の中でうずくまっている眞喜に声を掛ける。背中を打った程度のはずだが、返事がない。
「……眞喜……?」
心配になり、もう一度声を掛ける。眞喜は、小刻みに震えていた。
「どうした…」
起き上がり、眞喜の上半身も起き上がらせるリヒター。眞喜は、今にも泣きそうになっていた。
「眞喜……。お前、暗所恐怖症なのか?」
眞喜は震えながら小さく頷く。
「昔っ、人間に……研究所に……閉じ込められた、ことがっ…」
「っ……!」
リヒターは目を見開く。テセアラではハーフエルフへの迫害が酷いが、ここまでになるのは見たことがなかった。リヒターは掛ける言葉が見つからず、眞喜の肩を抱き寄せた。
「……!」
眞喜は驚き、リヒターの顔を覗く。暗闇に慣れてきた目には、微かに赤くなったリヒターの顔が映った。
「リヒター……?」
「黙れ」
『肩を抱き寄せる』から、『抱きしめる』という行為に変わったとき、タイミングがいいのか悪いのか、閉じ込められた外からアステルの声が聞こえた。
「リヒター!眞喜ー」
「有難うアステル、助かったわ」
アステルの力を借りて外に出た眞喜はアステルに礼を言う。
「まさか閉じ込められてるとは思わなかったよ」
笑いながら言うアステルはあることに気づいた。
「何かふたりとも顔赤くない?」
「中が暑かっただけだ」
即答するリヒターに、アステルはからかう視線を向ける。
「へぇ〜」
そしてその後研究所に帰るまで、リヒターと眞喜はアステルの怪訝そうな視線に晒されることとなる。