――窓の外でビルの群れに沈む夕日。その眩しさに目を細めながら『陽が落ちるのも遅くなったなあ』なんてどうでもいいことを脳裏で考える。
「せんせー、私って実は文系なんですよ」
脊髄だけで口を動かしながら先生の方を見ると、プリントから顔を上げいつも以上に眉間に皺を寄せる先生と目が合った。
「……どこから聞いていなかった?」
机を挟んで正面に座る先生は私の手元にある答案用紙を覗き込む。極端に丸の少ない紙面には三問目までびっちりメモがしてあり、今先生が解説していた四問目には書き込みが全くない。その様を見て先生は深いため息を吐いた。
「物理学は選択科目だが?」
眼鏡を外して目頭を揉みながらも先生は私の戯言に付き合ってくれる。理系の科目は一通り苦手で出来れば一生涯関わりたくなかったけれど。それをこのアイゼン先生が許してくれなかった。
「察してくださいよ」
二年間試験の度にこうして放課後にマンツーマンで解説をしてくれる先生。期待してもいいのか悪いのか分からなくて、つい本心を覗かせてしまう。一年間に十回もないこの貴重な時間が、もしかしたら今回で終わってしまうかも。口にしてからハッとして、それでもそれを見抜かれないように平静を装って先生の次の言葉を待った。
しかし返答は帰ってこず、
「もう一度問四の説明をするぞ」
と
再びプリントに目を落として解説を再開する。不自然な程のスルーっぷりに、不思議と悲しさも悔しさも沸いてこない。もしかしたらさっきの言葉は先生の耳に届いてなかった?この二人しかいない教室でそんな事ってある?頭の中でそんな自問自答を繰り広げながら、素直に先生の解説に沿ってメモを取る。あと二問、という所で教室のスピーカーから最終下校時刻を知らせるチャイムが鳴り響いた。その音で先生の声が止まり、ぱっと外に目をやるとすっかりと陽は沈み真っ暗になっていて。持っていたペンを机に置いて、さっきと同じ様に世間話のような無駄口が口をついて出る。
「機械工学部、でしたっけ。部活の方はよかったんですか、せんせー」
暗い空を見たままそう言うと、先生が椅子から腰を浮かす気配が。追いかけるように先生へと顔を向けると、先生は眉間に皺を寄せたまま口を開いた。
「教師のオレから言わせる気か?……それこそ察しろ」
それは一体どういう意味ですか――そう問いかける前に先生は自分用のプリントを手に取り、ぺそんと私の頭にかぶせる。
「今日はもう下校時間だ。続きは明日の放課後だな」
プリントで遮られて見えないその表情が気になったが、それ以上ににやけてしまっている私の顔を見られたくなくて、そのままの状態で私は答えた。
「はい、せんせー」