熱中症にご注意を


「暑いよ〜〜」

とある宿のロビー。旅人たちの待合所としても利用されるその椅子に座った眞喜は大きく息を吐いた。屋内に入ったにも関わらず泊まる気配のない汗に辟易しつつ手で顔を扇ぐが気休めにもならず、直ぐに動作を中断。少しでも気を紛らわせようと、斜め向かいの椅子に腰かける旅の仲間――アルヴィンに向かって会話を投げかける。

「この前読んだ本でさあ、妙齢の女の子たちが『袖から覗く人の肌が汗ばんでたらエロいよね』って言い始めるのがあったんだけどさあ」

気だるげな態度を隠そうともせずに話し始める眞喜。聞き手のアルヴィンは内心『おっさんの会話かよ』と思いながらも、少しでも身体に籠る熱を冷まそうと黙って続きを促した。

「うちのパーティって長袖ばっかだよね……」

眞喜は項垂れた頭をゴン、と音を立てながら机に凭れさせる。選ばれた話題はどうかとも思うが、何もしていないと暑さにばかり気を取られてしまうため、アルヴィンも仕方なく会話を続けるために口を開いた。

「ミラさまは出てんじゃん、肌」
「ミラは特別でしょ……流石にちょっと出し過ぎかなーって思うレベルじゃん」

何ゆえか悔し気な声音で眞喜はそう言い、眉間に皺を寄せて顔を上げる。

「大体みんな厚着しすぎでしょ……。ミラまで布を減らせとは言わないけど、見てるこっちが暑くなるわ!」

やけくそになったのか最後は語気を荒げて床を強く踏み鳴らす眞喜に、スカーフの結び目を少しだけ緩めながらアルヴィンは溜め息交じりに言った。

「八つ当たりすんなって……。それにそもそも汗かいててエロいのは女子の方だろ」
「うわあもうアルヴィン最低。ヘンタイ。ロリコン!」
「お前が振った話題だろ!?」

足で謎のリズムを奏でながらアルヴィンを罵倒し始める眞喜に、アルヴィンは異議ありとばかりに眞喜の机に突っ伏したままの頭をはたく真似をする。その時、ふと鼻孔をくすぐった香りに眞喜は顔だけでなく上体を起こしてアルヴィンに顔を近づけた。

「何だよ」
「結構汗かいてるのにアルヴィン、汗臭くないね。香水?」

スンスンと鼻を鳴らしながら問いかけてくる眞喜。アルヴィンはキザったらしく胸を張って口角を上げて見せる。

「香りは紳士のたしなみよ。つっても、眞喜も別に汗臭くはないだろ」
「え、ちょっと待ってよ――あっはははははくすぐったい!!」

お返しとばかりに眞喜の首元に顔を近づけるアルヴィン。しっとりと汗で湿った眞喜の肌の匂いを確認して、アルヴィンは「ほらな」と肩を竦めた。

「眞喜の匂いしかしねえよ」
「もおおおおおおおこのセクハラロリコン豆腐メンタル傭兵!」

セクハラまがいのその行動に眞喜は顔を赤くしながら、笑うアルヴィンの肩を叩く。

「あれが若い男女のふれあいというやつか……」
「ちょっとちょっと、あれ止めなくていいの?」
「やっぱりアルヴィンくんは変態だー!」
「二人を現実に戻してください、ジュード」
「僕!?僕にはちょっと荷が重いんじゃないかな……」
「いやはや、暑苦しいまでのいちゃつきっぷりですね」

すっかり暑さを忘れたその二人の様子を、仲間たちが白い目で見ていたことを二人が知るのはもう少し後の話。