ロクデナシに愛を


青い空。照りつける太陽。そよぐ潮風。そして、眼前に広がるのは日光をきらびやかに反射する海、ではなく。

「ちょっと……人多すぎない?」

波打ち際と、本来なら白いはずのビーチを埋めつくす人口過多な人混みが、そこにはあった。

バスに揺られて数時間。一週間前から楽しみにしていたというのに、これでは海で泳ぐどころか人にぶつからずに砂浜を抜けられるか、といったところだろう。日よけの為のパーカーを羽織る肩をがっくりと落とせば、そんな私を背後の海の家からせせら笑う声が届いてくる。

「夏休みの上に休日なんだから、当たり前にきまってるだろ」

振り返ると、そこには私に無理矢理連れてこられて今の今まで不貞腐れていた臨也の姿が。気持ちを切り替えたのか私の反応が気に入ったのか、いつもと同じ意地の悪い笑顔を浮かべていた。

「流石にここまでとは思ってなかったよ……」

がっくりと項垂れて臨也の近くの日陰に入りながら、もう一度首を捻ってここから見える景色を確認する。『まるで人がゴミの様だ』と、現実逃避の様に某アニメ映画に出てくる大佐の台詞が頭を過ぎった。折角水着まで用意して海にまで来たのだからもう少し遊び気を出してもらおうと、全くもって乗り気でなさそうな臨也に目をやる。臨也はその整った顔に表情を浮かべることなく、ともすればこの状況に全く興味がないようにすら見える相貌をしていた。

「臨也はどうなの?大好きな人間がわんさといる訳だけど」

冗談っぽくそう問いかけると、臨也は呆れを前面に押し出して溜息を吐いて見せる。

「流石の俺もこんなシチュエーションで人間観察なんてする気が起きる訳ないだろ」

人間観察が好きっていっても場面によりけりなんだろうか。正直よく分からん。「ふーん」と気のない返事を返すと、臨也は大きく伸びをして立ち上がった。

「眞喜が誘ったんだろ。泳ぎに行くなり海の家で何か食べるなり、取り敢えず何かしなよ。そうしたら俺も人間観察できて満足って事にするよ」

観察対象宣言をされてほいほいと次に行動を移せる人間なんてそういるものでもないと思うけど、まあこの臨也に付き合ってる私も大概イロモノだというのは既に自覚している。無理を言って一緒に来てもらった手前、ほんの少しだけど負い目もない事もなかった。臨也が私の言動を見て満足してくれるというならそれでいいかななんて、そう思う。

「じゃあ取りあえず海水に触りに行こう!」

声高に『人間観察が趣味』だなんて言いながら、その為に徳行とはどんなにかけ離れた事でも実行してしまう。そしてそんな行状が常になっていることを自制も反省もしないロクデナシだけど、私は選んでここに居るのだ。彼にとっては手っ取り早くて簡単な観察対象だから一緒にいるのかもしれないけど、そんな彼が抱える真っ黒な本来の腹中に欠片でも私が留まってくれれば、私はそれだけで充足した日々を遅れるのである。