vow

しんしんと降る雪を見上げて掌を差し出す。手袋の上に落ちた雪は形を無くし私の手に小さなシミを作った。

「寒いね……今夜は温めてよ」
「そういう事はもう少し大人になってから言いなさい」

鼻を赤くして隣に佇む彼にそう言えば、彼はいつもと変わらない笑顔で諫めるようにそう言う。年の差なんて、今更なんだというのだろう。結婚できる年齢なんてもう過ぎたのに、いつまで経ってもこの距離を縮めようとしない彼に少しだけ……ほんの少しだけ苛ついて凭れ掛かった。

「ねえ、私とはいつ向き合ってくれるの」

ルークたちとの旅を通じて沢山の事を学んだのだろう。私を認めてくれないのはきっと、だからこそ、なのだろうか。だとしたら私では到底手に届かないところに彼は立っていて。それでも尚手を伸ばすことをやめられないのはやっぱりそれこそが私が子供な証拠なのだろう。そんな事実が悔しくて、自然と涙が両目に滲む。ひとつ鼻を鳴らせば彼は静かに私の手を取り握りしめた。

「もう少しだけ待っていて下さい。彼との約束がもう少し形になれば必ず戻ってきます」

途方のない、しかし強い決意と共に在る誓い。その成就を望んでいるのはジェイドの言う彼だけではない。私だって、その先の未来を目にしたい。生まれた時があと少し早ければ、彼らと共に歩めただろう。――共に歩むことが出来なかったからこそ、彼と、彼の大切な友人の望んだ未来を私も見たかった。

「待たない……私も行くよ、ジェイドの隣に」

彼の手を強く握りしめてそう言えば、彼は驚いたように私の顔を見下ろす。そして

「期待していますよ」

と笑みを零して見せた。

「子供の私にはまだまだ先がありますから、これから先なんて選び放題でしょ」

独り言のつもりでそう呟くと、彼の指が私の指を絡めとる。そして彼も鉛色の空を見上げて息を吐き、呟いた。

「貴女がそこまで言ってくれるのなら私も覚悟を決めないといけませんね」

途端、握った手を引かれて彼の腕の中に納まる。決して高くない体温に驚いて彼の顔を見上げると、彼はにこりと笑って私の名前を呼んだ。

「形にするのはまだ先になるでしょう。ですがそれまでの間も、私と共に……それで構いませんか」

途方のない、しかし強い決意と共に在る彼の大切な友人への誓い。その誓いと共に、私も彼の隣に在ってもいいということだろうか。

「……私はそう望みます」

そう付け足された言葉を聞いて私は無言で彼の背中に手を回し、この情けない顔を見られないようにと顔を彼の胸に埋める。優しく私の頭を撫でる手を、子ども扱いされていると思いながらも受け入れ静かに涙を流した。

しんしんと降る雪の中、彼の体温と私の体温が混ざり合う。これからも、その先も、私が彼の誓いの力になることを誓って――。