旅は道連れ





「……ごめんなさい」
「何故お前が謝る」

風が吹き荒ぶ砂漠の真ん中で共に佇む凶悪な顔をした隣人に謝罪の言葉を投げかけるが、彼は腕を組んで太陽に目を細めたままそう答えた。先程まで一緒にいたベルベットたちの姿はどこにもなく、私たち二人は所謂迷子状態というやつで。それもこれも自分のせいだ、と思っているのだけど、どうやらアイゼンも同じことを思っているようだった。

「虫業魔を見て行きなり逃げ出したお前とお前の後を追ったオレの前に次々と業魔が現れたのも、逸れたアイツらと合流しようとして道に迷い続けたのも、そうこうしているうちにいつの間にかこんなだだっ広い場所に出たのも、全てはオレが原因だろう」
「……本当にごめん……。いくらオアシスだったからってまさか砂漠のど真ん中であんな虫業魔が出るとは思わなくって……」

……思い出しただけでも怖気がする。オアシスで休息を取る私たちの前に現れたのは巨大な、それもブヨブヨ系の虫業魔で、あんなのが視界に入ってきたらどうしたって反射的に逃げてしまう。パニック状態になった私を恐らく心配して追いかけてきてくれたのだろうアイゼンとベルベットたちの元へ戻ろうときた道を引き返そうとしたのだが、道を振り返る度に別の業魔が現れたりして、それはもうカオスな状態だった。業魔地獄からやっとの思いで抜け出せたかと思ったら次は道に迷ってどこだかわからないところに出てくるし……。道中のトラブルが例えアイゼンの加護の結果だったとしても、事の発端と道に迷った事は私が原因なのは明白だ。それでもアイゼンが私を責める事はなく、一刻も早くベルベットたちと合流しようと歩みを進める。

ベルベットたちどころか元いたオアシスすら見つけられずそろそろ陽も傾こうかという頃になると、流石のアイゼンも勿論私も、体力の限界が近いことを感じ始めた。少しだけ休憩しようと岩場の陰に二人揃って座り込む。この暑さで汗ひとつかいていないアイゼンを、流石に普段海賊だと豪語しているだけあるなと心の中で思いながら横目でちらりと見遣った。砂漠を二人で彷徨っただけだけれど、なんだか二人旅のような感じがして楽しい気がしたと言ったら不謹慎だろうか。あと何千年を繰り返したらその時がくるかは分からないけど、もしもすべてに決着がついたらその時はアイゼンや――デゼルたちと共に旅がしてみたいような気もする。けれど今は聖寮との戦いに赴くどころかベルベットたちと合流すら出来ていなくて。すっかり熱で茹だってしまった頭が冗談のつもりで言葉を発信する。

「……このまま二人で旅に出ちゃう?」
「……それもいいかもしれんな」
「――え?」

アイゼンなら絶対に頷かないだろうと思ったから出た台詞。それも、後から思えば魔が差したとしか思えない言葉にアイゼンは口角を上げながら答えた。熱で頭をやられてたのは実はアイゼンの方だったんじゃ。それとも暑すぎて聞こえた都合のいい幻聴?いやきっと私の聞き間違いだ。そう。そうに決まってる。あのアイゼンが私との二人旅に賛成するなんて。頭の中で勝手にそう結論付けてひとり頷くと、アイゼンは更に言葉を重ねて言う。

「もちろん、カノヌシとのケリを着けてアイフリード海賊団が無くなってからだがな。何十年、何百年先の話だ。その頃にお前の気が変わってなかったら付き合ってもいい」
「――ほんとに?」

本人からしたら冗談のつもりなのかもしれない。『死神の呪い』を持っていて、いつドラゴンになってもおかしくない身の上で。その自分相手にいくら私でも何百年も待てる筈はない――そう思っての言葉なのだろう。私の、いつもより少し高くなった声音に今度はアイゼンが意外そうに目を見開いた。アイゼンはできない約束をふっかけるような男ではない。だからこそ今の台詞は言葉以上に予想外だったし、嬉しくもあって。

「今の、絶対に忘れないで」

縋る気持ちでそう言ってみれば、アイゼンはふと笑って私の頭をくしゃりと撫でる。

「その時が来たらお前の方からオレのところに来るだろう」

そう。何百年、何千年かかろうと必ずアイゼンの元へ辿り着いてみせるよ。だから――

「うん。待っててね」

そう言ってアイゼンに微笑みかけ、私は勢いよく立ち上がった。

「その為にもまずベルベットたちと合流しないとね!行こう、アイゼン!」

差し出した私の手を強く握って立ち上がるアイゼン。眩しい陽の光に目を細めながら、私とアイゼンは再び歩き出す。






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