BADEND





「なによこれ……。あり得ないわ!」

珍しく狼狽した様子でエドナは呟いた。

今しがた、突然に黒いもやで包まれた若き天族。彼女が事切れる前に発せられた穢れは普段の彼女の様子から、そして彼女の天族として生きた筈の歳月からは考えられない程のものだった。そしてそれは導師たるスレイでも浄化することはできないと一目で理解できるもので。その穢れによって生まれ変わったグートルーンを、導師と天族はただ見つめることしかできない。

じっと目を瞑り浅い呼吸を繰り返すそれの両腕両脚はしっかりと地面を踏みしめており、最高位のドラゴンであることを一行に理解させる。 ついさっきまで彼女を抱いていた腕を下ろすこともできず、デゼルは皆と同様にただ呆然とグートルーンを見上げた。腕の中で異形に変化していく彼女の感触。あれが天族があちら側に墜ちる瞬間なのかと理解するデゼル。圧倒的な存在感を放つドラゴンは十秒間浅く呼吸を繰り返した後弾かれたように目を見開き、ペンドラゴ周辺までをも揺るがす咆哮をあげた。

「くくくく……興醒めで終わるかと思えば、これはこれでいい余興となったではないか……。さあ導師よ、そのドラゴン、好きなように相手するがいい」
「待て!!」

自身の思惑が阻止され苦虫を噛み潰した様な表情だったサイモンだったが、想定外のドラゴンの出現にくつくつと笑って見せ、スレイたちの前から姿を消した。スレイが慌ててそれを追おうとするも間に合わず、何も居ない石畳でタタラを踏む。グートルーンの発する唸り声で慌てて振り返ると、外門からザビーダが血相を変えて駆けてくるのが目に入った。

「なんだこりゃあ……何がどうなってんだ!!」
「分かりません!いきなりグートルーンさんから途轍もない量の穢れが発生して!」

悲鳴に近い声音でそう言うライラの横を通り過ぎ、ただ呆然とするデゼルをザビーダは引き起こす。

「こんなもんどうすりゃいいのよ!」
「今の僕たちじゃ勝ち目はない。とにかく逃げないと!」
「でもこんなに場所にグートルーンを……ドラゴンを放って置けないよ!」

――既に消失した意識の中、グートルーンはどこか遠くで仲間たちの声を聴く。空を仰いで耳を澄ませば、風に乗って遥か遠くの懐かしい声が聞こえた気がした。遠く遠く離れた霊峰で、独り空を飛ぶ『彼』の声。決して自分を呼んでいるのではないのだろうが、それでも無意識に、その音に惹かれる様に変わり果てたその足で地面を蹴った。

「グートルーン!!」

自らの命を賭して救いたかった男の声が遥か下から呼びかける声が耳に届く。しかしその声に微塵も反応を見せず、グートルーンは翼を羽ばたかせた。





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