滅多にない休日。
私と蛍君は用事がなかったので、二人で会う約束をしていた。蛍君がうちに来て、一緒に借りてきたDVDを見ながら、くつろいでいると、丁度ケーキを買っていたのを思い出した。少しの間テレビから離れて冷蔵庫にショートケーキを取りに行く。蛍君の大好物でもある。ただ、本人は素直に認めてはくれない。あのクールな蛍君が、甘いケーキが好きだなんてギャップを知ったときは、なんだか嬉しくなったものだ。
フォークを二つもって先ほど座っていた位置に戻る。蛍君は真剣にDVDを見ているのか私の方に見向きもしない。そして悪戯心も手伝って、私はある作戦に出ることにした。
『蛍君、あーん』
「なに」
『いらない?』
蛍君のためにと買ってきたケーキをフォークですくい、差し出す。すると、蛍君は怪訝な顔をして私を見た。想定内想定内。彼が簡単にあーんをさせてくれるわけがないことは分かっている。
『私が食べちゃうよ!せっかく蛍君と一緒に食べようと思ったのに〜』
受け入れてくれたら嬉しいなというちょっとの希望でやったみたが、やっぱり駄目だったか。少し残念に思いつつ、しつこくして嫌われたくないので、諦めることにした。私が自分の口にケーキを運ぼうとすると、その手は止められた。そして、そのままそのケーキは蛍君の口に運ばれていく。やっぱり食べたかったんだ。
『美味しい?』
「まぁまぁ」
『そっか』
そう言って再びDVDを見始めた。なんだかナチュラルに受け入れてくれたけど、こうしてあーんをさせてくれたのは初めてかもしれない。快挙だ。
『もっと食べる?』
「ん」
今日は甘えたモードか、やけに素直に受け入れてくれる。本当に可愛いところがあるなぁ。他の人は知らないのだろう。いつもクールな蛍君が、甘えてくれる様子を。私だけが知っている姿だ。
『けーいくん』
「何」
そう言って私も甘えるように彼の肩に頭をコツンと乗せる。そして彼の手に自分の手を重ねる。私も甘えたくなってきたのかもしれない。今の私達はそういう雰囲気だった。彼の手の甲を撫でていると、手を裏返して、恋人つなぎをしてくれる。
それでも一向にこちらを見てくれないのは、彼の意地だろうか。もっと構ってくれてもいいのに。もはや私はDVDの内容など気にせず、ただひたすらに甘えていた。
すると観念したのか、DVDを停止し、ようやくこちらを見てくれた。
「構って欲しいならそういえば?」
『言わなくても分かってるくせに』
それを言うのとほぼ同時に、私は一度立ち、正面を向いて蛍君の足の間に座る。そして、ギュッと抱き着くと、信じられないほど優しく抱きしめ返してくれた。
『あったかいねぇ』
「能天気」
『んふふ〜』
「…聞いてないし」
蛍君のにおいが鼻腔いっぱいに広がる。何気ない休日。それは幸せの一日でもあるのだ。
2019.08.31- by ぷんぷん