『いってらっしゃい』
「いってくる」
今日は丁度バレーの練習が休みだったため、私は飛雄君の家に遊びに来ていた。今日は両親が家に居ないらしい。飛雄君のお母さんには何度か会ったことはあるが、とても美形で、さすが飛雄君のお母さんと思った。
飛雄君は体を動かしていないとうずうずするらしく、外に走り込みに行きたいと言って、家を出ていった。知り合いの家に、家の主がいないと言う何とも不思議な状態になっている。
私はその間飛雄君の部屋でくつろいでいいと言われたので、そうさせてもらうことにした。
飛雄君の部屋はとてもシンプルで、バレー以外のものと言えば机とクローゼット、そしてベッド、本棚くらいだろうか。本棚には月バリがあったので見させてもらうことにした。
そして熱中すること数十分。そろそろ帰ってくる頃だと思い窓から外を見ると、丁度飛雄君が帰ってくる姿を発見した。
私は急いで玄関に行き、入ってくるのを待つ。
そして、数十秒後、かちゃりと音を立てて帰宅してきた彼と目が合う。
『おかえりなさい、飛雄君!』
玄関で出迎えるだなんてなんだか夫婦みたいだ。私がまさか玄関で待っているとは思っていなかったのか、少し目を見開いている。
「…ただいま」
少し目をそらしながら照れくさそうにしている。私と同じことを思ったんだろうか。
『これ、タオルとドリンク。あと、体冷やさないようにね』
そういって両方を差し出すと、飛雄君はこちらに手を伸ばしてきた。なんだか飛雄君の専属マネージャーみたいだ。
『……!?』
飛雄君の手は、私が差し出したタオルとドリンクを通り越して、いつのまにか私の背中に回っていた。
「帰ったらお前がいんの、なんか、いい」
背中をさするでもなく、ただギュッと抱きしめられる。私はゆっくりと飛雄君の背中に手をまわした。
『私、さっきちょっと夫婦みたいだなって思っちゃった』
飛雄君は私よりもかなり身長が大きいから、体勢としては覆いかぶさるようになっている。全部が包み込まれているような感じがして、とても落ち着く。私のすべてが飛雄君で覆いつくされているような、そんな感じだ。
『いつかなれるかなぁ』
「……名前じゃなきゃなろうなんて思わねぇよ」
『ふふ、私も飛雄君とじゃなきゃダメだと思う』
いつ夫婦になれるかなんてわからない。恐らくそれはまだ先の話だし、今どうこう考えても、未来はいくらでも変えられる可能性を秘めている。
だけど、いつか私は、飛雄君が安心して帰れる場所になりたい。彼の体温を確かめながら、そう思った。
2019.08.31- by ぷんぷん