「あの、青城高校の及川さんですよね?握手してもらってもいいですか?もしよければ写真もお願いしたいんですけど…」
それは名前ちゃんとの久しぶりのデートを満喫して、帰宅している途中での出来事だった。突然数人の女の子たちに声をかけられた。多分俺のファンの子達だ。こんなことは日常で少なくない。
「もちろんいいよ〜。名前ちゃんちょっとごめんね」
『あ、…はい』
笑顔で対応すると、女の子達は頬を赤らめて恐る恐る手を差し出してきた。その手を握り返すと女の子たちの嬉しい悲鳴があがる。そしていつものように写真を撮り終えると、女の子たちは満足したようで、お礼を言われてからその場からいなくなった。
そして、気づくと名前ちゃんは少し遠くの電柱付近にいた。いつの間にあんなに遠くに行ったんだろう。不思議に思いつつ駆け寄ると、表情が曇っているのが分かった。こんな陰りのある表情はあまり見たことがない。
「ごめんね、お待たせ」
『…待ってないですよ』
えっと、なんか機嫌悪くない?こんな経験初めてで、どうすればいいか分からない。いつも明るく笑顔で話しかけてくる彼女と、先ほどから目が合わない。
「名前ちゃーん」
『…なんですか』
「こっちむいて」
『嫌です。徹先輩にはもっと綺麗でお似合いの人いますもん…』
唇を尖らせてあからさまにそっぽを向く彼女。えっと、これってまさかとは思うけど…。
「もしかして、妬いてくれたの?」
そう言ってしばらくすると、今にも泣きそうな顔で俺を見上げてくるから、おもわず抱きしめてしまった。可愛い、可愛すぎる。
『呆れましたか…?』
探るように訪ねてくる彼女を抱きしめる力をさらに強める。
「呆れるわけないじゃんか。今嬉しすぎてどうしようって思ってるとこ」
素直に自分の気持ちを伝えると、彼女は弱弱しい力でギュッと抱きしめ返してきた。精一杯手を広げて抱き着いてくる健気さに、俺は彼女の後頭部を掴んで胸へとぐっと引き寄せた。
『徹先輩は、私のです…』
まだスネているような口調で顔を埋める名前ちゃん。俺は独占欲が強いほうだと自分で自負している。しかし、おそらくだけどこの反応を見る限りじゃ、名前ちゃんも嫉妬深く、独占欲が強いのだろう。
今まで想像もしてなかった一面に、より愛しさが増す。そして、彼女の頭に少しずつキスを落としていく。彼女も黙ってそれを受け入れてくれる。
誰もいない道端で、俺は気が済むまで彼女を抱きしめていた。
俺はもう、この先名前ちゃん以外では絶対に満足できないんだろう。
2019.08.31- by ぷんぷん