「あの、山口君、…月島君の好きな食べ物とか、知ってる?」
まただ。
俺はよく、女の子に話しかけられるんだけど、その内容は大抵ツッキーに関することだ。確かにツッキーはかっこいいし、女の子にモテるけど、クールな性格をしているから話しかけづらいと思われているところはある。
「あー、ごめんよく知らないんだ」
これは嘘ではない。ツッキーは自分の好みについて多くを語らない。「僕〇〇が好きなんだよね」と突然言われた方が驚いてしまうだろう。
「そっか…、ありがとね」
俺にツッキーのことを聞くことですら精一杯だっただろう。せっかく聞いてくれたのに、役に立てなくてごめん…。
最近はそういった類のことを聞かれることが多くなった。
原因は多分苗字ちゃんだ。ツッキーは苗字ちゃんと話している時は、どことなく雰囲気が違う。話しかけづらいオーラを出していないというか、寧ろ話してみたら楽しいのではないかという気さえ起こさせてくれる雰囲気だ。
そんな二人の様子を見た女の子達が、私もいけるのではないかという気持ちになるのだろう。
苗字ちゃんはすごい子だ。あの影山とも対等に渡り合っている。
俺にも優しく平等に話しかけてくれる明るい彼女を見ていると、同い年だがとても癒される。近くにいるとつい撫でたくなるのも分かる純粋さだ。
『や、ま、ぐ、ち、くん!』
すると、どこからかリズムを刻んで名前を呼ばれた。このテンションの女の子は俺の知っている限りは一人しかいない。
「え、あれ。どうしたの」
『今日ね、家庭科でマフィン焼いたんだ!食べて食べて』
「俺に?」
『そうだよ!山口君一番乗り〜』
苗字ちゃんが差し出してきたのは綺麗にラッピングされたマフィンだった。家庭科の授業では、各班が自分たちが作りたいものを作る調理実習の時間がある。俺たちのクラスも来週あるんだけど、作るのはクッキーだ。
「一番乗りって…」
『一番最初に見つけたから、マフィンの贈呈者第一号ってこと!』
苗字ちゃんは誰かを理不尽に優先するとか、あからさまに贔屓するとか、そんなことは絶対しない。本当に平等精神がある子で、気も遣えるいい女の子だ。
いつも、俺はツッキーの後ろに隠れてて、なににつけても二番手で。そのことについて悩んでいた時期もあった。
でも彼女はそんな悩みさえも平然と突き破って、俺の元へ真っすぐ来てくれる。彼女がそばに居たら、コンプレックスもいつか長所に変わってしまう、そんな気がする。
「ありがとう、はは、食べるの勿体ないや」
『そんな大層なものじゃないよ〜。美味しくなかったらごめんね』
美味しくないはずがない。多分君が作ったものなら、どんな味でも美味しく感じてしまうんだろうな。
「苗字ちゃんが作ったんだから、絶対美味しいよ!」
『ありがとう!もう、そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうよ。もう一つあげちゃう!』
ちょっぴり単純だけど、ひたむきで、まっすぐ笑顔を見せてくれる苗字ちゃんが、俺はとても好きだ。
2019.08.31- by ぷんぷん