いよいよ春高の試合が始まった。
私たち烏野高校は1回戦を突破し、2回戦へと駒を進めた。そして、今日の残りは試合を観戦するだけとなった。音駒高校の試合を観戦したり、Tシャツを買いに行ったりと、比較的自由な時間ができたので、私も会場内を散策することにした。
そして、私は人通りの少ない廊下で泣いている女の子を発見した。
『どうしたの…?』
「おかっ、おがあさん…いない…っわぁああん」
その姿にとても胸が苦しくなった。発言と状況から察するにお母さんとはぐれてしまったのだろう。
『そっか、でも、もう大丈夫だよ。お姉さんがお母さん見つけてあげる!』
今までお姉さんという言葉を使ったことは一度もなかった。いつも年下に見られることが多かったし。でも今実際にお姉さんって使ってみてなんだか変な感じだ。
「…ほ、んと?…っひっく」
しゃくりあげながらうるんだ瞳で私を見上げてくる。泣いている子に対して失礼かもしれないけど、これはとても可愛い。
『ほんとだよ!!!一緒に探しに行こ!そしたらお母さん絶対見つかるから!』
「ひっく、…うん…行く」
『よーし、じゃあお母さん探しの冒険だ!おいで』
私が手を差し出すと、私の顔を手を交互に見てくる女の子。そしてその子に笑いかけると、少しずつではあるが近づいてきて、ようやく手を繋いでくれた。安心させるように頭をぽんぽんすると、恥ずかしそうに前を見る健気さに全力で大丈夫だよと伝えたい。
そして、人通りの多そうなお土産売り場(Tシャツやバレー関連のグッズを売っている場所)にたどり着いた。女の子の手を離さないようにギュッと握りながら、人ごみの中に足を踏み入れると、私が非力なあまり、行きたい方向に行くことができない。こんなはずじゃなかったのに!
『すごい人だねぇ、一旦でよっか…ぐふっ!』
人ごみの中で必死に声をかけるも、やはり思った方向に行くことができない。見知らぬ人から故意ではないのだろうけど肘パンチを食らったり、足を踏まれたりと散々だ。どうしようと考えあぐねていると
「こっちきい」
見知らぬ人に腕を掴まれた。私は女の子の手を離さないように、その人に着いていく。その人のスピードについていくのが精いっぱいだったが、その人は私とその女の子を人ごみの中から出してくれた。
「ここなら安心やろ」
『あ、あの!ありがとうございました!』
「えぇって。人ごみは危ないから気ぃつけや」
『はい、以後気を付けます!』
そして掴まれた手を放してもらうのと同時に、その人の顔を初めて確認した。この顔、どこかで見たような気がする。つい最近だ、えっと…そうだ!宮侑さんとそっくりなんだ!宮侑さんは全日本ユースの候補に選ばれるほど有名なセッターだ。私はそのことを確認しようとしたが、
「治、そろそろいくで」
「あ、すんません。今行きます。ほんなら、姉妹で仲良くな」
誰かに呼ばれた宮侑さんのドッペルゲンガーはこの場からいなくなってしまった。そして姉妹ではないことも言いそびれてしまった。この後偶然女の子のお母さんと遭遇し、無事に彼女を送り届けることができた。ほぼ役に立たなかったが、女の子が「お姉ちゃんまたね」と笑顔で言ってくれたので、よしとしよう。
そして後々彼が侑さんと双子の人だということを知ることになったのだった。
2019.08.31- by ぷんぷん