試合後の球場。青道が勝利し、選手たちが整列を終えたタイミング。
遠くからなまえは見てしまった。
――御幸一也が、他校のマネージャーらしき女の子に呼び止められ、告白されている瞬間を。
「……っ」
胸の奥がきゅっと掴まれる。
御幸は困ったように笑いながら「ごめん」とだけ言って、あっさり断っていた。
それでも、なまえの胸には小さな棘が刺さったまま抜けなかった。
――私じゃなくてもいいんじゃないかな。
そう思った瞬間から、御幸の顔をまともに見られなくなった。
「……なぁ、なまえ」
不意に背後から腕をつかまれ、驚いて振り返る。
すぐそこに、御幸の真剣な顔。
「避けてんだろ、俺のこと」
ドアが閉まる音が響く。
壁際に追い詰められて、もう逃げられない。
「ち、違うよ……」
「違わねーだろ。目見りゃわかんだよ」
御幸の声が震えているのに気づいた瞬間、なまえの胸がぎゅっと締めつけられる。
「だって……一也くんは誰にでも優しくて……私なんかじゃ不安で……」
涙混じりにこぼした言葉に、御幸の表情が一瞬ぐしゃりと崩れる。
「……お前、バカだろ」
そう呟くと、勢いよく抱きしめられた。
背中に回された腕が、あり得ないくらい強い。
「俺が断る時に、どんな気持ちだったと思ってんだよ。……“あぁ、なまえが泣くだろうな”って、そればっか考えてたんだよ」
「え……」
「余裕ぶって“ごめん”とか言ったけどさ……内心、心臓潰れそうだった」
耳元で吐き出される声は、震えたまま。
それを聞くなまえの方が泣きそうになる。
「俺の余裕、全部持ってったのお前だろ……? こんなに不安にさせて、どうすんだよ」
「……ごめん」
「謝んな。……二度と俺から目逸らすな」
そう言って、御幸が強引に唇を重ねる。
深く、何度も。
唇が離れたあとも、額をくっつけたまま、彼は小さく息を荒げて笑った。
「……なぁ。俺、マジで余裕なくすの、お前だけなんだわ」
――それは、不器用すぎる愛の告白だった。